なぜRIZINで朝倉海は元UFC戦士の顎を砕きまたしても“秒殺TKO”に成功したのか?
総合格闘技イベントの「RIZIN.19」が12日、大阪のエディオンアリーナ大阪で行われ、セミファイナルの61.0キロ契約スペシャルワンマッチでは、朝倉海(25、トライスフォース赤坂)が佐々木憂流迦(30、SerraLongoFightTeam)をわずか54秒でTKOで下した。右フックでテイクダウンを奪うと、膝蹴りとパウンドの嵐。ドクターは顎の骨折の疑いで試合続行不能と判断した。試合後、朝倉が8月に「RIZIN.18」でKOで葬った堀口恭司(29、ATT)がリングに上がりRIZINバンタム級のベルトを朝倉に渡し再戦をアピール。榊原信行実行委員長は、大晦日にさいたまスーパーアリーナで行われる「RIZIN.20」でのRIZINバンタム級タイトルマッチとしての再戦を正式発表した。
強烈な右フックで顎を砕く
その瞬間、佐々木の首がガクっと横に曲がった。それくらいの威力で朝倉の強烈な右フックが至近距離から顎をとらえた。「寝技天使」の異名を持つ佐々木が、打撃戦に付きあいたくないため、肩あたりをつかみにきたタイミングを見逃さずに打ち込んだ体重の乗った左右のフックである。 「僕の得意距離。右が当たれば倒れるイメージはあった。分析していた通り。右のパンチのクリーンヒットは相当効いたと思う」 セコンドについた戦略家の兄・未来(27)に授けられた作戦のひとつ。 思わずカメ状態になってテイクダウンした佐々木が顔をあげると、そこにアッパーをお見舞いし、一気に怒涛のパウンドで襲いかかった。 それでも、UFCで戦ってきた佐々木は、冷静に、その右手をつかみ、追撃を防ごうとする。だが、朝倉は、体の向きを変えて、左手で後頭部を抑え込みリングに張り付けておいてから膝蹴りをガツンガツンと顎を狙ってぶち込んでいく。残酷だ。佐々木は口から血を流した。 朝倉は、一度、攻撃の手を休めて離れたが、ダメージのある佐々木は片膝をついたまま立ち上がれない。目はうつろで口元は血まみれ。そこでドクターがチェックに入った。まともに口を閉じることのできない佐々木に対してドクターは首を振り、顎骨折の疑いで試合続行不能を宣言した。 衝撃の54秒TKO勝利。 朝倉はコーナーに上がって5098人の浪速のファンに勝利をアピールした。一方の佐々木は、そのドクターストップの判断に抗議するでもなく口から血を滴らせたままだった。 「1ラウンドKOで勝つことができてよかった。向こうは寝技が得意。テイクダウンをとらせないように打撃戦で戦おうと考えていた。ただ大振りになったのは反省点、ダメなところもあった」 朝倉は静かに勝利を噛みしめていた。 リスクのある試合だった。 8月のRIZIN.18であまりに劇的な68秒KO勝利でRIZIN、ベラトールの2冠王の堀口から記憶を奪った。大方の予想を覆す番狂わせだった。 だが、この22勝7敗2分けのファイターに負ければ、大晦日での再戦が内定していた堀口戦への気運は失せる。例え勝っても、怪我でも負えば、大晦日に向けてのコンディションを整える上で大きなハンディになる。 それでも、この試合を受けた理由を、朝倉は、こう説明した。 「リスク以前に絶対に勝てる自信があった。待っていても、それ以上のことは何も起こらない。自分から動いて、もっと面白くするためにアクションを起こした。大晦日に向けて突き抜けるためには、みんながやらないことをやらないとダメ」 朝倉海の名を「堀口にジャイキリを起こした男」のままで止めたくない。 その狙いは成功した。修斗を主戦場に2014年にUFCと契約、2度、パフォーマンス・オブ・ザ・ナイトを獲得した佐々木を倒して「元UFCファイターの顎を折った男」の称号が新たに加わったのである。