「寝ても疲れが取れない人」が勘違いしている「効率的な休み方」の驚くべきコツ
「疲労」と「疲労感」の違い
――リテラシーを高めるためにはどうすればよいのでしょうか。 まず、「疲労」への理解を深めることです。そもそも、人はなぜ疲れるのでしょうか。日本疲労学会では、「疲労」を「過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である」と定義しています。 例えば、100メートルを繰り返し走ると、回を重ねるごとにタイムは落ちていきます。これは肉体的な活動能力が減退して疲労の状態になるからです。また、筆記テストを受けた時は、椅子に座ってペンを動かすだけなのにぐったりしますよね。集中して頭を使い続けることで精神的な活動能力が下がるのです。 この疲労を放置したまま過度な活動を続けると心身に不調が生じてしまいます。ただ、動物にはちゃんと安全機能が備わっていて、危険を察知するとアラートを発する。そのアラートが「疲労感」です。 ――「疲労」と「疲労感」は違うのですね。 そうなんです。「疲労感」は、「だるい」とか「おっくうだ」というような、「疲労」を自覚する感覚です。これは動物の本能で、疲労感を覚えた動物は動かなくなります。 私は犬を飼っているんですが、散歩中に動かなくなることがあります。それは、犬が疲労を感じているから。もし、サバンナで動物が疲れた状態で動き回っていたら、天敵が現れた時に活動能力が下がっていると逃げ切れないですよね。だから、本能的に安全な場所で動かないという選択をする。 人間も動物ですから本能が働きます。ただ、他の動物よりも脳が発達しているため、疲労感を自ら隠す、いわゆる“マスキング”をして活動を続けてしまう。
休む時間は増えたはずなのに
――なぜ、マスキングをしてしまうのでしょうか。 仕事に対するやりがいや責任感、褒賞への期待感など理由は人それぞれですが、日本人が勤勉で、いまだに「働くことが美徳、休むことは罪悪」だと捉える風潮があることが大きいでしょう。疲れているからパフォーマンスが下がっているのに、「怠けているからダメなんだ」とマスキングをする。その結果、労働時間が長くなって疲労がたまり、心身への負担も増加してしまうのです。 ただ、世界的に見ると、日本人の労働時間はそれほど長くはありません。OECD(経済協力開発機構)の2022年の統計によると、日本人の労働時間は減少傾向にあり年間1607時間。これは、世界の平均である1752時間より少ないんです。 しかし、疲れている人は増加しています。1999年の厚生省(当時)の疲労度調査では、60代までの就労者の約6割が「疲れている」と答えていました。一方、私が代表理事を務める日本リカバリー協会が、2023年に就労者10万人を対象に疲労に関する調査を行ったところ、約8割の人が「疲れている」と回答。調査の条件が異なるとはいえ、増加傾向にあることは否めません。 ――休む時間が増えたはずなのに疲れているのは不思議ですね。 昔とは疲れ方が異なることが理由だと思います。デジタルデバイスの発達によって働き方は肉体労働から頭脳労働へと大きく変わりました。頭脳労働は自律神経の交感神経が活発になるため、仕事が終わった後も興奮や緊張の状態が続いてしまいがちです。しかも、動きが緩慢になったりする肉体的な疲労に比べて、見た目にもわかりにくいのでマスキングがしやすい。 また、休養には「余白」の時間が重要ですが、デジタルデバイスはそれも奪ってしまう。取引先との商談において、インターネットも携帯電話も普及していなかった頃は、取引先に向かう電車の中で本を読んだり、ボーッとしたり、あるいは早めに行って近くの喫茶店でコーヒーを飲んだりしていました。勤務時間は長くても、余白を使ってうまくバランスを取っていたんです。 ところが、今はデジタルデバイスで商談ができます。移動中にメールチェックやチャットをし、喫茶店でオンライン会議に出席することもあるでしょう。余白をデジタルデバイスで埋めてしまうから、より疲れてしまうんです。