日本を救う「トランプ」という劇薬…プーチン、習近平、金正恩「独裁者」の逆襲への外交姿勢と道筋
世界平和サミット、露朝首脳会談、そして南シナ海の領有権を巡る中比衝突――。 米国主導の戦後秩序を崩そうと目論む中国、ロシア、北朝鮮の専制独裁国家3ヵ国は、互いに軍事協力を深めながら現状変更へと大きく舵を切った。中露朝が世界に向けて示威行動を集中させた’24年6月を後年振り返った時、「あの時から戦後秩序の終わりがはじまった」と言われるのかもしれない。 【画像】すごい…!トランプ前大統領と不倫関係を明かした"セクシー女優"秘蔵写真…! ◆中露蜜月と露朝接近 予兆はあった。まず5月16日にロシアのプーチン大統領(71)が中国を訪問。習近平国家主席(71)と会談し、「中国は公正でバランスの取れた立場を取っている」と称賛した。念頭にあったのはウクライナ和平への道筋を話し合う初の国際会議「世界平和サミット」に中国が出席しないことの要請と確認だった。 習主席にとっても、ウクライナ戦争でロシアが敗北することで、ロシアを支援してきた中国が国際社会で孤立する事態は避けたい。中国が米国に対抗し続けるためには、中露の蜜月ぶりをアピールし、対米牽制で共闘できる強いロシアが必要だという思惑があったのだ。 事実、この会談の1ヵ月後の6月15日から2日間にわたってスイスで開かれた平和サミットに中国は不参加を貫いた。 グローバル・サウス(新興・途上国)で中心的な役割を果たしているインド、ブラジル、南アフリカなど10ヵ国以上は「ウクライナを含むすべての国の領土保全」を確認した共同声明の署名に応じなかった。これらの国々は中露を中心とする多国間の協力組織BRICSの加盟国、もしくは加盟希望国であり、声明にはロシア非難すら盛り込まれなかった。 直後の6月19日、プーチン大統領は北朝鮮を訪問。朝鮮労働党の機関紙・労働新聞に「ソ連は朝鮮の愛国者たちと肩を並べて戦い、(日本の)関東軍を撃滅させた」などと寄稿し、朝鮮戦争にも触れて「輝かしい歴史的伝統だ」と主張した。 今なお日本と米国を共通の敵だと強調した上で、事実上の軍事同盟である「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結。隣国日本にとって、露朝の脅威レベルはケタ違いに高まってしまった。 ◆崩壊・形骸化する国際秩序 すでにロシアは弾道ミサイルや数百万発の砲弾を北朝鮮から調達。その見返りに偵察衛星など高度な軍事技術を供与しているとされるが、今後は戦術核兵器など先端兵器の開発支援を加速させる恐れがある。プーチン大統領は「米国とその同盟国によって触発された国連による北朝鮮に対する無期限の制裁体制は見直されなければならない」と強調したが、それは度重なる北朝鮮の核とミサイル開発に制裁決議で臨んできた国連安全保障理事会を形骸化させるだけでなく、ロシアが北朝鮮の核戦力を支援、強化することで、核拡散防止条約(NPT)体制を終焉させる愚行にほかならない。 崩壊する戦後秩序はこれだけではない。中国は6月15日、国際法を無視し、「自国の管轄海域」と主張する東シナ海と台湾海峡、南シナ海に至る海域一帯で、侵入した外国人を拘束できるとする新法を一方的に施行した。直後の17日、南シナ海のアユンギン礁の近海で、中国海警局の船とフィリピン軍の運搬船が衝突。海警局が運搬船に乗り込み、乗組員を一時拘束し、負傷させる事態に発展した。 同じことは、沖縄・尖閣諸島周辺でも起こりうる。同諸島の周辺海域で操業する日本漁船を追跡するように接続水域から領海内に侵入する海警船は後を絶たず、最近は機関砲など武器を搭載した大型船も頻出している。海警船が尖閣沖の接続水域内を航行するのは、昨年12月22日から192日連続(6月30日現在)と過去最長を更新し続けており、政府は海上保安庁と衝突する事態と対応について、真剣に考えねばならない。 ◆舐められた米バイデン政権 ウクライナ危機は東アジアに飛び火しかねない状況だ。だが、特筆すべきは米国の存在感の薄さではないだろうか。 バイデン米大統領(81)は件(くだん)の平和サミットには出席していない。露朝の急接近に対しても、米国防総省の報道官が「両国の協力関係の強化は懸念すべきこと」と″遺憾砲″を放った程度だ。 平和サミットの共同声明にグローバル・サウスの国々が署名しなかった理由の一つに、イスラエルに対するG7の対応が指摘されている。G7の国々はウクライナ侵略でロシアを非難するが、人道軽視を続けるイスラエルへの反応が鈍いという″二重基準″の問題だが、これはイスラエルに即座に反撃を許してしまった米国の対応の誤りではないだろうか。 「反撃を一日待て」とイスラエルのネタニヤフ首相(74)に言えるのは米国だけであり、’01年の米同時多発テロの時と同じように国連安保理を緊急招集し、ハマスの非道で残虐な行為を世界に訴えていれば、国際社会の見方は変わっていたに違いない。拒否権を行使するであろうロシアの身勝手さも強調できたはずだ。 米国主導の国際秩序は、大きく揺らいでしまった。米同時多発テロ後に続いたアフガニスタンとイラクでの戦争に疲弊したオバマ大統領(62)が’13年に「米国は世界の警察官ではない」と宣言。’17年に誕生したトランプ大統領(78)がグローバリズムを批判し、アフガンからの撤退を決定するなど自国第一主義を強めたことなどが発端だと指摘されている。 ’21年4月、「軍の撤退ほど難しいオペレーションはない」ことは″軍事常識″であるにもかかわらず、バイデン大統領はわざわざ9月11日までにアフガンから米軍を撤退させることを公表、大きな混乱を招いてしまった。その後はロシアのウクライナ侵略、ハマスのイスラエル攻撃と続き、’24年6月、露朝は軍事同盟を結び、中国はさらなる海洋の秩序破壊に乗り出している。いずれもバイデン政権下で起きていることだ。 ◆もしトラ、ほぼトラの先 今の国際秩序を維持できるのか否か。そのカギを握るのが、11月の米大統領選であることは明らかだ。前大統領のトランプ氏が勝てば、最大の懸念は対露政策だとされる。取引(ディール)を好み、個別の首脳外交を重視するため、ロシアにウクライナ領土の一部割譲を認め、ウクライナに停戦を迫るのではないかと言われているからだ。 だが、1期目でトランプ氏は中国を最大の脅威とし、対中包囲網でもある日米豪印4ヵ国による「QUAD」を閣僚級の枠組みに格上げしながら、習主席とは対話を維持していた。北朝鮮に対しても経済制裁を強める一方で、金正恩総書記(40)を首脳会談の場に引き出している。政治は結果がすべてだ。 ただし、現状打破に舵を切った中露朝も、決して一枚岩ではない。今回、露朝が急接近したのは中国がロシアに殺傷兵器を供与しなかったことがキッカケであり、中国にすれば、北朝鮮がロシアと接近することで、中国離れを起こすのではないかという懸念を抱えている。 つまり米新大統領には、3ヵ国のすき間につけ込み、入り込む知恵が求められる。戦後秩序を終わらせないために、″もしトラ″そして″ほぼトラ″の先を期待してもいいのではないだろうか。 そのためには日本が中国、韓国など大陸との関係を強化し、北朝鮮との関係構築に注力するという外交姿勢と道筋をトランプ氏に示す必要がある。 かつまた・ひでみち ’83年に読売新聞社に入社。’93年から防衛庁・自衛隊を担当。’99年には民間人として初めて防衛大学校総合安全保障研究科を修了。ルワンダ難民支援、東ティモールPKO、インド洋給油活動、ソマリア海賊対策など多くの自衛隊海外任務を取材。解説部長や編集委員などを経て’16年4月から日大教授。著書に『自衛隊、動く』(ウェッジ)、『検証 危機の25年』(並木書房)などがある 『FRIDAY』2024年7月19日号より 文:勝股秀通 (日本大学危機管理学部特任教授)
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