なぜエース久保建英は延長戦の末に決勝進出を断たれたスペイン戦後に「涙も出てこない」と語ったのか
グループリーグの3試合ですべてゴールを決め、日本に先制点と3連勝をもたらしてきた久保は、スペインが試合を支配し続ける展開でチャンスをうかがい続けた。 前半終了間際には右サイドからドリブルでカウンターを発動させる。ペナルティーエリアの右側から利き足とは逆の右足で鋭いラストパスを通したが、走り込んできたMF旗手怜央(川崎フロンターレ)が放ったシュートは相手のブロックで防がれた。 後半33分にはMF堂安律(PSVアイントホーフェン)のパスを受けて、ペナルティーエリア内の左側へ侵入。角度のない位置から左足でシュートを放ったが、ニアサイドを狙った強烈な一撃は先のユーロ2020でも活躍した守護神ウナイ・シモン(アスレティック・ビルバオ)にセーブされた。これが枠のなかに飛んだ、日本の初めてのシュートだった。 そして、ともに5試合連続で先発してきた堂安とともにベンチへ下がった延長戦。勝利を託した思いは、ペナルティーエリアの右角あたりでパスを受けたアセンシオが振り向きざまに放った、日本の一瞬の隙を突いたゴラッソに打ち破られる。 再三の攻守を見せてきた20歳の守護神、谷晃生(湘南ベルマーレ)もなす術がなかった完璧な一撃が、緩やかな弧を描きながらゴール左隅へ突き刺さる。それまでベンチに座っていた久保はベンチ前に出て仲間たちを鼓舞するも、吉田を最前線に上げたパワープレーも実らないまま、ブラジルが待つ決勝へとつながる扉は閉ざされた。 「悔しいですね。個人的にはけっこう気持ちが厳しいですけど……」 途切れそうになる気持ちを奮い立たせるように、チームに経験と新たな力を加えてくれた3人のオーバーエイジのうち、前々回のロンドン五輪の準決勝でメキシコに、3位決定戦で韓国に敗れた吉田、DF酒井宏樹(浦和レッズ)の名前を久保はあげている。 「麻也さんと宏樹君はここ(五輪)で4位になっているから、メダルを獲りにいこうという話になって。個人的にも2人にそういう思いをさせたくないので、自分の100パーセントの力を出して、メダルだけは取って帰りたいと思います」 歴史は繰り返されるというべきか。1968年のメキシコ五輪の3位決定戦では、開催国メキシコをFW釜本邦茂の2ゴールで撃破した日本が銅メダルを獲得した。53年の歳月を経て東京で開催されている五輪で、開催国日本とメキシコが再び銅メダルを争う。 吉田も努めて前を向きながら、フラッシュインタビューで言葉を紡いだ。 「次、勝つしかないですね。あまり精神面を話すのは好きではないんですけど、ここまでいたらメダルを取りたいという気持ちが強い方が勝つと思うので。もうひとつ自分たちを突き動かして、最後、メダリストとして笑って終わりたいと思います」 五輪でよく言われる言葉に、「銀メダルは負けて手にするが、銅メダルは勝って終われる」がある。U-24代表として迎える最後の戦いへ。メダリストになって解散する――を合言葉にしながら、久保をはじめとする選手たちは失意を新たなエネルギーに変換させて、グループリーグ第2戦で2-1の勝利を収めているメキシコとの再戦に臨む。 (文責・藤江直人/スポーツライター)