スポーツカーに未来はあるのか “走りの刺激”を伝え続ける方法
マツダ・ロードスター、現行モデルの大きな価値
マツダ・ロードスターは日本が誇るスポーツカーの一つで、世界中にファンがいる人気車種である。現行モデルは4代目で、登場したのは2015年であるから、すでに9年目を迎える長寿車種とも言える。 それでも現在の主査(開発を主幹するエンジニア)である齋藤茂樹氏は、電池の開発が進み重量負担が少なくなるまで、現行のNDロードスターを作り続けたいと明言している。つまり、次世代のロードスターはハイブリッド化が免れないため、今のロードスターを超えることは難しいのである。 もちろん主査の主観であり、そういった計画を決めるのは経営陣ではあるが、今のロードスターがどれだけ価値あるクルマかが伝わってくる発言だ。 一方でトヨタの取り組みも面白い。同社はかつては5チャンネルあるディーラー網でそれぞれ専売車種を設定して、高い国内販売シェアを維持してきた。マークII三兄弟をはじめとした兄弟車でバリエーションを増やし、幅広いニーズに対応してきたのだ。 それを覆したのがプリウスのヒットだった。正確にはプリウスをヒットさせ、それを遅延なく納車しメンテナンスするために、全チャンネル販売を英断したのだ。それによって3代目プリウスは未曽有のヒット作となった。結果、各チャンネル専売の根拠も薄れたのである。 そこから時間を経て専売制を撤廃し、今では全車種販売を繰り広げている。その一方で「GRガレージ」という従来のディーラーとは異なる拠点も展開している。
トヨタが「GRガレージ」を展開する、深い理由
GRガレージは、トヨタのレーシングブランドであるGAZOO Racingの名を冠した拠点で、GRブランドの車両を販売、メンテナンスするほか、オーナーの要望に応じたカスタマイズやサーキット走行のためのモディファイ(改造)まで行っている。 経営母体が異なるため、拠点により温度差はあるものの、積極的に走りを楽しむオーナーのためにさまざまなサポートを展開している。ミニバンやSUVにまでGR仕様(こちらはドレスアップのみ)を用意するのは、いささかコンセプトがブレている印象もあるが、GRが本当に走りを追求するユーザーのためのブランドというイメージは定着しつつあるようだ。 クルマが便利さや経済性だけで選ばれるようになれば、最終的には価格の安さで中国や韓国の自動車メーカーに太刀打ちできなくなる可能性がある。だが安全性や信頼性といった品質と並んで、クルマの本質である走りの性能や感触でブランドイメージを構築できれば、そこに価値を生み出し差別化ができるのだ。 トヨタが豊田章男会長の趣味に巨額の資金を投じているという見方をする報道も見受けられるが、まったくもって勘違いも甚だしい。実用的なクルマばかりを作り続けていたら、クルマの楽しさをユーザーは忘れてしまう。 クルマを購入したいと思うユーザーには、運転を楽しむ層が一定数存在する。それに応え、そこに続くユーザーを育てるためにもスポーツカーは必要なのだ。 現時点ではトヨタ、日産、マツダ、スバルの4メーカーはスポーツカーを生産、販売している。これからスポーツカーはどう進化していくのか。自動車メーカー各社の取り組みが楽しみだ。 (高根英幸)
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