【トランプ言動におびえる台湾】TSMCは守れるか?台湾有事は?悲観論と決意に包まれる台湾
米大統領選におけるトランプ氏の勝利は、台湾に巨大な衝撃を与えている。その中で最も落胆を感じているのは、ほかならぬ頼清徳総統なのかもしれない。 トランプが台湾の現政権に敵対的になるとは限らない。しかし、今後起きうることについて、台湾が打てる手は限られており、「予測不能」のトランプ次期大統領の一挙手一投足にひたすら怯える日が続くはずだ。
遅れたTSMCの米国工場の生産開始
台湾も、日本やその他の国と同じではないか、という声も聞こえてきそうだが、台湾と他の国の対米関係で根本的に異なるのは、台湾が正式な外交関係を有さないところにある。米台関係を支えるものは、「台湾関係法」という米国の国内法で「十分な自衛能力の維持を可能とする防御的な武器を台湾に供与する」という条文があるだけに過ぎない。 実際のところ、どれほどの武器を供与するかについては、その時期の米国政府の思惑によって一方的に決定される。台湾の安全保障は、台湾の国防力整備の事情に鑑みるのではなく、米国の政権の対中政策が反映されやすい脆弱性を持っている。 トランプ当選後、米国市場は好感を示し主要株は軒並み上昇した。ただ、そのなかで半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の米国上場株は3%以上の大幅下落となった。それは主にトランプ氏が選挙キャンペーン期間中に繰り広げた「台湾叩き」に源を発している。 トランプ氏は「米国はチップ(半導体)を台湾に奪われた。そして今はそれをプロテクトしようとしている」と批判した。ほかのところでも「台湾は米国に(守ってもらっているので)保護費を支払うべきだ」とも述べた。「台湾は防衛費を国内総生産(GDP)比5%にするべきだ」とも語っている。 台湾の半導体業界、そしてTSMCには、トランプ氏をめぐって過去の苦い経験がある。
現在、TSMCは米国のアリゾナ州フェニックスに半導体製造工場を有している。その誘致にあたっては「WHY、アリゾナ?」との声が最初から多かった。半導体産業の集積は当然、米国西海岸に集中している。TSMCの顧客も同様だ。 アリゾナ州は、共和党と民主党が拮抗する激戦区エリアで、トランプ氏にとってはぜひ取りたい重点州の一つだった。進出地の決定をめぐり、政治的思惑があると見られたのも無理はない。進出を決めてからも、現地当局や労働組合とも調整に手間取り、建設準備は大幅に遅れ、生産開始は進出が後から決まった日本・熊本工場よりも遅くなった。 TSMCでは今年、マーク・リュウ会長が交代したが、米国工場の進出をめぐって創業者・モリス・チャン前会長の不興を買ったとの見方も流れている。米アリゾナ工場の工事開始のセレモニーに参加したチャン氏は「自由貿易は死んだ」と語り、半ば無理やりTSMCを引っ張ってきた米国への不満を滲ませた。