柄本佑 どこまでも自然体「出家シーンで地毛を剃ったのは、″ちょっと長いから切る″くらいの感覚」
「本当に″厚み″のある時間でした」
「準備期間も含めると、撮影は2年ほどかかりました。現場で監督やスタッフとの絆や信頼が自然と築かれていき、後半の半年くらいはもう、″そうだよね、ああだよね″っていう阿吽(あうん)の呼吸みたいなものが生まれていた。本当に″厚み″のある時間でした」 【本誌未掲載カット】「地毛を剃ったのは…」柄本佑 肉迫インタビューでみせた「素顔」 大河ドラマ『光る君へ』で藤原道長を演じた柄本佑(37)は、豪胆さと人間らしい弱さを兼ね備えた新たな″道長像″を見事に演じ切った。紫式部との恋や宮廷での権力争いを軸に、野心と孤独が交錯する平安の世界を丹念に表現した本作は、12月15日に最終回を迎える。 作品の中心に立ち続けた柄本が「特に印象深い」と挙げたのは、第7回の「打毬(だきゅう)」の場面。打毬とは、馬に乗り、スティックで球を掬(すく)ってゴールに入れる競技で、平安貴族が好んだスポーツである。劇中では道長をはじめ、藤原公任(町田啓太)や藤原斉信(金田哲)らがハツラツとスティックを振り回す姿に貴族の子女たちがウットリしたのだが――練習は大変だったという。 「打毬をやるって聞いた時は、『えっ! こんな棒を馬上で振り回すの!?』って驚きました(笑)。本格的に乗馬練習を始めたのが昨年1月から。そこから少しずつ打毬の練習を加えていって。本番を迎えたのは8月下旬。気づけば半年以上も練習していました」 可能な時は週2~3回ペースで馬術と打毬の猛訓練。難易度は高かったが、それがかえってハマるきっかけになったという。 「最初はスティックで球に触れることに必死になっていたのですが、たまたま当たると、『お、いい感じじゃん!』って嬉しくなって、そこからだんだん楽しくなってきたんです。そうなると、今度は『もっといけるな』って欲が出てくるんですよ。『今のじゃねぇな』とか、こだわりが生まれて、逆に面倒くさくなっちゃうんですけど(笑)。お馬さんも本当に賢くて、カメラの画面から出るとピタッと止まる。自分で手綱を引いて止めたりしなくてよかったので、打毬に集中できた。お馬さんに助けられましたね」 ◆「阿吽の呼吸」で仕事をする楽しさ 道長は二人の兄たちを疫病で亡くし、安倍晴明の勧めに従って幼い娘の彰子を入内させるなど紆余曲折を経て権力の頂点に立ったが、第45回ではついに出家することとなる。特殊メイクという選択肢もあったが、柄本は、迷うことなく地毛を剃ることを選んだ。 「剃髪のシーンがあるかどうかもわからない段階で、プロデューサーさんに『もし出家する場面があるなら、剃りたいです』ってお願いしました。特殊メイクだと、自分の髪を中に押し込む形になるんです。正面はなんとかなっても、横向きが不自然に膨らむ。その姿を想像すると、やっぱりリアルに剃ったほうがいい。『どうすればそんな決意ができるのか』と聞かれましたが、自分の中では″髪がちょっと長いから切る″くらいの感覚で、そこまで大げさなことではなかったですね」 そんな柄本の自然体な姿勢が物語の軸である。まひろこと紫式部を演じた吉高由里子(36)とのシーンにも大きな影響を与えた。 「こうしよう、ああしよう、なんて話し合ったことは案外なかったんですよ。『このシーン長いね』とか、冗談を飛ばすことはありましたけどね。人間同士ですから、言葉を交わさなくても成立する部分があるんです。吉高さんとは、本当に自然に演技ができて、勝手に″相性がいいな″と思っています。一緒にやっていて、『こんな表情するんだ』とか『こう来るんだ』って驚かされることが本当に多かった。だからこそ意図的に表情や所作を詰めるよりも、ふわっとした状態で挑んだほうがいいと思ったんです」 俳優として歩み始め、20年以上の歳月が流れたのを機に、初のフォトブック「1(いち)」を発売。責任編集としてこだわり抜いた一冊だ。来年2月の発売に先駆け、サイン入り写真をファン一人一人に手渡しする「ファン感謝会」を開催する。 「若い頃、フランソワ・トリュフォー映画祭に参加した際に、映画評論家の山田宏一先生のトークショーがありました。終了後、ロビーで山田先生にサインをもらったのですが、サインを書いてもらっている間って、自分だけの時間みたいになるじゃないですか。聞きたいことがいっぱいあったけど、後ろに並んでいる人たちからのプレッシャーもあって、緊張して聞けなかったんです(笑)。それでも、『行ってよかったな』ってふとした時に思い出します。僕、話が長いし口下手なんですけど(笑)、簡潔にしゃべるように気をつけながら、来ていただいた方お一人お一人と時間を共有できればと思っています」 2年にわたる大河の現場で「阿吽の呼吸」で仕事をする楽しさを知った柄本は、「1日だけの現場でもそれを実現するのが今後の目標」と語った。その思いを胸に、これからも新境地を切り拓いていくのだろう。 ◆えもと・たすく/’03年映画『美しい夏キリシマ』で主演デビュー。’19年、映画『きみの鳥はうたえる』で第73回毎日映画コンクールの男優主演賞ほか受賞。’25年2月、アニメ映画『野生の島のロズ』(声の出演)と映画『ゆきてかへらぬ』が公開となる。『柄本佑1st フォトブック「1(いち)」』がwith STOREで受注中。全冊、直筆サイン&シリアルナンバー入り。日常や家族の秘話も収録している 『FRIDAY』2024年12月27日号より
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