「ふざけんな」公共の場で思わず声が出る 脳の中では一体なにが
今回、WEBオリジナル企画「主治医の小部屋」で取り上げるのは「公共空間でつい声が出てしまう悩み」について。電車で、喫茶店で、あるいは信号待ちの道路で怨恨(えんこん)のつぶやきが漏れてしまうとき、脳の中ではどんなことが起きているのか。菅原通仁医師に教えていただきました。 【動画】平日にくたびれたサラリーマンの”週末の癒し”とは?
動物としての本能が顔を出す
Q:40代男性です。最近、上司とうまくいかず、自宅に帰って「くそっ」「ふざけんな」などの言葉を発してしまいます。家の中だけならまだいいのですが、道を歩いているとき、電車に乗っているときもつい口をついてしまう始末……。もしかして、これって「汚言症」? そうでなくてもいずれは発症するのではと怯えています。独り言、特に汚い言葉を発してしまう原因や、ならないため、治すためにはどうしたらいいか教えてください。 ――相談者の男性は、自身を汚言症ではないかと疑っています。 汚い言葉などを繰り返す汚言症は、チック症の症状の一つです。チック症は自分の意思とは関係なく、体の動きや声が繰り返し出てしまうというものですが、10代前半に症状のピークを迎える場合が多く、大人になってからも激しい症状が続くのは珍しいことです。 相談者の方は40代。ですからチック症や、同症状が長く続くトゥレット症というより、別の問題を抱えている可能性があります。 ――それはどんな問題なのでしょうか。 理性をつかさどる前頭葉の機能低下です。人は前頭葉が発達しているから、人の気持ちを推し量ったり、物事を計画的に進めたりするなど、社会的な活動を行えます。ですが、何らかの理由で機能が落ちてしまった場合、扁桃(へんとう)体の反応が抑制できず、ブレーキがかかっていた動物としての「本能」が表面化してきます。 すると、怒りや悲しみが抑えきれなくなり、場合によっては不適切な状況にもかかわらず思わず声が出てしまう。前頭葉の機能が落ちる原因はいろいろですが、相談者の方のケースは、おそらく上司とのコミュニケーションがうまくいかないことからくるストレスかと。 ただ、感情の高ぶりによる独り言は決して珍しいことではありません。身に覚えのある方も多いのではないかと思います。 ――確かに、昔の失敗を思い出して恥ずかしくなり、思わず声が出そうになった経験があります。 自分の過去の言動や行動を振り返り、分析することを心理学で内省といいますが、自問自答をくり返していくうちにどつぼにハマってしまうわけです。「あのとき、なぜ言い返さなかったのか」「なぜ、あんな行動をしてしまったのだろう」――。答えが出ないままモヤモヤがたまり、ついには汚言などの形で爆発してしまうのです。