黒木華主演「アイミタガイ」短編集をどうやって長編映画に? 構成を大胆に変えてテーマがより明確に 「原作どおり」と思わせてくれる幸せな映画
■短編の人物相関図を組み替えて長編に
映画のストーリーを見てみよう。映画版の主人公はウェディングプランナーの梓(黒木華)。高校時代からの親友でカメラマンをしている叶海(藤間爽子)が事故死するも、それを受け入れることができない梓は持ち主のいなくなった叶海のスマホにメッセージを送り続けている。そんなとき、仕事で担当している金婚式で演奏予定だったピアニストの都合がつかなくなった。急遽代わりを探さねばならず、訪問ヘルパーをしている叔母(安藤玉恵)に相談する。 一方、叶海の四十九日法要の日、知らない児童養護施設から叶海宛にカードが届いた。叶海の両親(田口トモロヲ・西田尚美)が不審に思い連絡をとってみると、叶海とその施設に意外な交流があったことを知らされる。 まず大きな改変として、原作では第2話でちらっと出てくるだけのウェディングプランナーを主人公にして物語を再構成した点が挙げられる。そして梓というのは原作第5話のヒロインの名前であり、映画でも梓が祖母の家を訪ねる展開になる。つまり、第5話の主人公の仕事がウェディングプランナーで、第3話で亡くなったカメラマンと親友だった、というふうに設定を組み替えたわけだ。なるほどねえ。 もちろん第1話で「この人起こした方がいいよなあ」と悩む若きサラリーマン・澄人(中村蒼)も準主役級の役どころで登場する。ただこの人物については原作でも彼の役割がわかるのは少し先なので、ここでは触れないでおこう。原作通りのエピソードが登場する、というだけにとどめておく。 逆に原作からカットされたのは第4話の他、第5話の「腹違いの弟」だ。梓と弟を巡るエピソードはすべてカットされ、代わりに梓は恋人を伴って祖母の家を訪れる。だがそれ以外は原作にあったエピソードをそのまま踏襲しており、構成を大胆に変えながらも「原作通り」と思わせてくれる映画になっていた。 一方、原作にないエピソードもいくつか加えられていた。梓と叶海が高校時代に友達になり、互いの進路の後押しをし合った仲だという設定もそうだし、ふたりでどこかの家から流れてくるピアノを聴いていたというのも映画オリジナル。叶海の死後にメッセージを送り続けるというのももちろん原作にはない。澄人が訪れる宝飾店も原作には出てこない。
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