「終活なんて全く考えていない」黒柳徹子が「老い本」を絶対に書かない理由
世界的ベストセラーの42年ぶりの続編『続 窓ぎわのトットちゃん』を刊行し、ますますご活躍の黒柳徹子さん。彼女が「老い本」を書くことは今後もないだろうと、酒井順子さんは予測します。 【エッセイスト・酒井順子さんが、昭和史に残る名作から近年のベストセラーまで、あらゆる「老い本」を分析し、日本の高齢化社会や老いの精神史を鮮やかに解き明かしていく注目の新刊『老いを読む 老いを書く』(講談社現代新書)。本記事は同書より抜粋・編集したものです。】
老いにはノータッチ
2023年(令和5)に、黒柳徹子『続 窓ぎわのトットちゃん』が刊行されると聞いた時、「とうとう徹子さんも、老い本を出されるのか」と私は思った。『窓ぎわのトットちゃん』から、42年。90代となったトットちゃんが、過去を振り返りつつ老いを見つめる本が出るのだろう、と。 しかし読んでみると、それは全くもって老い本ではなかった。戦前、そして戦争中の話から始まり、戦争が終わると疎開先から東京に戻って進学。やがて俳優の仕事に就いて様々な経験をする……という、トットちゃんの前半生の記だったのであり、自身の老いについては、全く触れられていない。 一作目と同様に、 「トットは、よくよく不運な子だった」 「トットはうれしくて、思わず声を上げた」 などと、あくまでトットの視点で書かれており、高齢者としての黒柳徹子は登場しないのだ。 わずかに「あとがき」には、執筆時点の黒柳徹子が顔を出す。兄のようだった渥美清、母のようだった沢村貞子、姉のようだった山岡久乃……といった、芸能界における家族のような人々は皆、他界してしまったということで、後に残った者の寂しさが、そこには漂う。 しかし、しんみりした話はその程度。1976年(昭和51)から48年続いている『徹子の部屋』については、かねて50年は続けたいと思っていたが、「最近は百歳まで続けたいと思うようになった」。黒柳徹子の意欲は全く枯れておらず、まだまだ活躍を続ける気合が満ちている。 『続 窓ぎわのトットちゃん』自体も、著者が30代後半で、ニューヨーク留学へと旅立つところで終わっている。『窓ぎわのトットちゃん』の第三弾もいずれ出るのではないか、と思わせる幕切れなのだ。 あとがきの最後には、百歳まで頭もしっかりしていて『徹子の部屋』を続けることができたならば、 「お母さんになれなかったけどまあいいか、と納得するに違いない」 とあった。著者はかつて、「自分の子どもに、本を上手に読んであげられるお母さんになりたい」と思っていたけれど、お母さんにはならなかったが故(ゆえ)の一文である。 しかし『徹子の部屋』を百歳まで続けることができたなら、それも「まあいいか」と思えるだろうし、 「私はそのとき、丈夫な体に育ててくれたパパとママに、ありがとうを言うだろう。 私を理解してくれる人たちに、心からありがとうを言うだろう。 なんという、楽しみ!」 と、この本は終わるのだ。