発達障害の子、親が「専門家顔負けの支援」の中身 子どもの特性に合った関わりの技術を習得へ
個別指導の充実で、家庭でも療育的な関わりを実現
ADDSが運営する施設の1つである江戸川区発達相談・支援センターは、区独自で行っていた発達障害相談事業を引き継ぎ、新たに未就学児を対象にした児童発達支援施設を設けて2020年4月にオープンした。未就学児を対象にした児童療育事業を中核としながら、年齢を問わず利用できる相談事業と一体的に運営することで乳幼児から成人までワンストップの支援を目指している。 「特色は、療育の入り口として個別指導を充実させていることです。『ぺあすく』といい、親子で週1回80分で1年間、ABAの研修を受けたセラピストがお子さんへの直接支援とペアレントトレーニングを行っています。親子共学を重視し、親御さんにもお子さんの特性に合った関わりの技術を身につけていただきます。年間70~80の新規家庭を受け入れ、最大150~200家庭が在籍しています。1年間のプログラムを終えると集団指導やフォローアップ支援へと移行します。 1年間の限定プログラムという方式を採用した理由は、子どもが長い時間を過ごすご家庭を、発達支援の現場に位置づけているからです。療育は限られた場や専門家だけで行うものではありません。短期集中で親御さんにわが子の特性にあった関わり方の技術を伝え、家庭での療育的な関わりを実現できれば、子どもは生活全体で特性に合った支援が受けられるようになっていきます。さらに、限られた専門家のリソースでより多くの子どもたちに支援を提供できますので、毎年新規家庭の受け入れが可能になり、療育の待機も減らすことができるのです」 ADDSの強みは早期の個別指導に加え、ICTを積極的に活用した療育支援プログラムの開発と効果測定に基づいた療育を行っている点だ。アプリはAI-PACといい、センターでも家庭でも活用する。 AI-PACは、身辺自立スキル、コミュニケーション、運動感覚、数や文字の理解、会話、遊びなどといった領域で、合計約600の課題がある。療育では、この多数の課題から子どもの特性にあったものをピックアップし、オーダーメイドのメニューを組むという。 「人間関係や社会性の発達の基盤として、人の行動を真似する『模倣』という行動があります。模倣の習得を支援する場合、その前段階として、対象物に向かって手を伸ばすリーチング行動ができるかを確認します。リーチングがまだ出ないお子さんには、相手の持っている物に手を伸ばしたらいいことがあったという経験を療育の中で繰り返ししてもらうことが必要です。リーチングが安定してくると、支援者の手に手を伸ばしたり目で追いかけたりする行動が出やすくなり、それが次第に相手のポーズを真似する行動、つまり模倣につながっていくのです。 このように、発達段階に則した内容が領域ごとに配置されていて、一つずつ小さなステップを踏みながら練習していきます。到達度も記録でき、支援メニューや支援者の出す指示、手助けに使う援助刺激(プロンプト)も表示されます。これらの手続きを一つのカリキュラムリストにまとめて発達支援の進捗管理をするアプリケーションがAI-PACなのです」 ただし、課題をすべてマスターすることを目指すものではない。発達特性のある子どもは得意なことと苦手なことの凸凹がある場合が多い。それを視覚的に把握しながら、得意なところは伸ばし、苦手なところはゆっくり進めていく。こうしたAI-PACに蓄積された、一人ひとりの療育のデータを活用することで、スタッフが効果的な支援内容を計画できるという。 「親御さんも家庭で同じアプリを使っているので、療育の方向性が共有でき、いろいろなお話がしやすくなります。子どもの成長が段階的に見えることで、漠然とした不安が解消されるようです。小さな進歩でも、成長していることを実感できると、子育てに前向きになれます。ほめることで子どもが変わることを体験し、わが子の専門家として子育てを楽しんでくれる保護者が増えてほしいと願っています。 民間の療育機関や、特別支援学校でもADDSの開発したAI-PACは採用され始めています。これまで属人的で、ともすれば職人技のようになっていた支援や指導が、AI-PACのようなアプリケーションを導入することで、現場の支援者や専門職の目線を揃えることができる、との声をいただけるようになりました」 ADDSでは応用行動分析学に基づいた支援者の育成にも力を入れており、「ABAセラピスト養成研修」を実施している。計40時間の座学と実践の後、試験合格者を「初級ABAセラピスト」に認定している。資格取得者は大学生から現役の福祉職・教職関係者まで幅広い。
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