発達障害の子、親が「専門家顔負けの支援」の中身 子どもの特性に合った関わりの技術を習得へ
自閉症の子に言葉を教えるアルバイトがきっかけに
ADDSは現在、発達支援が必要な子どもに対する療育プログラムの研究開発、障害児通所支援、支援者育成を中心に事業を展開。指定管理を受託し運営する江戸川区発達相談・支援センターをはじめ、ADDS Kids 1st荻窪、ADDS Kids 1st鎌倉などを通じて発達支援を行っている。 ICTを活用した独自の療育支援アプリ「AI-PAC」は特許を取得していて、ほかの事業者にも提供している。これらも含めて2023年度に支援を提供した親子の数は401人、のべ2万2691人にのぼる。ADDSを立ち上げた理由について、熊氏はこう話す。 「小学校のころから『ブラック・ジャック』などの医療漫画が好きだったことや、虐待を受けた子どものケアを描いたトリイ・ヘイデンさんの『シーラという子』に影響を受けて、大学では心理学を専攻しました。発達心理学のゼミで応用行動分析学(ABA)に基づいた論文を読むと、自閉症の子どもが靴を履く練習をするためのスモールステップの組み方やほめ方、指示の出し方、手助けの減らし方など発達支援の具体的な方法が書かれていて、驚きました。学生の立場でも、再現可能で効果がある方法だという感覚を持ちました」 そんな折だ。後にADDSを共に立ち上げることになる竹内弓乃氏が、アメリカから帰国した自閉症の子に遊びの中で言葉を教えるアルバイトをしていることを知る。その療育プログラムが、まさに授業で学んだ応用行動分析学に基づいていることがわかり、熊氏も興味を持った。大学2年生のときだ。 その子はアメリカで専門的な療育を、お母さんもペアレントトレーニングを受けていたが、日本では療育を受けられる機関がなく、母親自らわが子の療育にあたっていた。竹内氏は、その母親から療育の方法を教わりながら言葉を教えていたのだが、そこに熊氏も加わったという。 「例えば、ちょうだいという要求の言葉を引き出すことを目的に支援を行っていたとします。ただ言葉を無理に言わせるのではなく、子どものモチベーションを上げて自発的な言葉が出やすいような関わり方について、きめ細かに指導を受けました。関わりがよかった場合は、お母さまからほめていただき、逆によくない関わりで、子どもの癇癪を誘発してしまったような場合は、別の関わり方に変更するよう指導されました。こちらの関わり一つで子どもの行動が大きく変わることを実感しながら、一つひとつフィードバックをもらってスキルアップしていきました。 その結果、子どもが言葉を話せるようになったり、コミュニケーションが豊かになったりする過程を多く体験させていただきました。大学で勉強したことを実際にやってみることは、まったく別世界のように難しく、同時に大きなやりがいを感じました。 親御さんが専門家顔負けの知識を持っていたので、子どもへの言葉がけが理論にかなっていることもよくわかり、納得感がありました。同じように勉強されている親御さんが集まって勉強会を開いたり、海外から専門家を招いて講演会を行ったりする機会にも参加させていただき、療育の最先端の情報にも触れることができました」 熊氏は、この経験が後に事業を組み立てるうえでも重要だったと振り返る。発達支援の実践現場に早くから関われたというだけでなく、専門家の介入する割合は一時期で、保護者が子どもの専門家になっていくプロセスを支援することが大切だと気づいたからだ。 その後、「応用行動分析学に基づいた療育ができる学生がいる」という口コミが広がり、多くの保護者から依頼が来るようになる。そこで、大学の指導教授で応用行動分析学が専門の山本淳一氏を顧問として、ほかの学生にも声をかけてサークルを立ち上げた。 「当時、起業するつもりはなく、博士課程を修了してから考えようと思っていました。ところが、修士課程修了時に博士課程の願書提出を、私も竹内も2人揃って忘れるというハプニングがありました。この1年のブランクを前向きに活用するため、任意団体ADDSを設立することになったのです。その後、NEC社会起業塾で学び『発達に特性がある子どもたちの可能性を最大限に広げられる社会を作る』というミッションを掲げて法人化しました」
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