始まった「移民逆流」…米国はトランプ、欧州は極右台頭で大量帰国 H5N1パンデミック発生でグローバル化にトドメ
■ 鳥インフルエンザでパンデミックか 新型コロナのパンデミックが発生した2020年上半期、先進国中心の経済協力開発機構(OECD)への移民は前年に比べて46%も減少した。 足元の状況をみてみると、米国で高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)のヒトへの感染が広がっている。 米疾病管理予防センター(CDC)は12月18日、「ルイジアナ州在住の高齢者1人がH5N1ウイルスに感染し、重症だ」と発表した。米国における今年4月以降の感染者数は61人となったが、これまではいずれも軽症だった。ルイジアナ州で検出されたウイルスは「D1.1」であり、従来の「B3.13」とは異なっている。 気になるのは、カリフォルニア州のニューサム知事が同日、「非常事態宣言」を発令したことだ。米国における最初の感染者が見つかったのはカリフォルニア州だ。その後も感染が相次ぎ、米国全体の半数を超える34人の感染者が報告されている。 世界のH5N1ウイルス感染は野鳥や家禽経由が主流だが、米国では乳牛からの感染がほとんどだ。米国全体で800以上の乳牛群に感染が広がっており、そのうち500以上がカリフォルニア州の事例だ。同州における乳牛への感染は制御不能になりつつあると言えそうだ。 ヒトからヒトへの感染は起きてないと言われているが、気がかりな分析結果が出ている。
■ トランプ次期政権の公衆衛生政策に懸念 米スクリプス研究所(本部はカリフォルニア州)は12月5日、「乳牛に感染したウイルスに変異を加えてタンパク質を構成するアミノ酸を1個変化させるだけで、ヒトの細胞への結合能力が格段に高まる」ことを米科学誌サイエンスに発表した。 専門家の間では「H5N1ウイルスと季節性インフルエンザウイルスの両方に感染したヒトの体内で遺伝子の組み換えが起き、ヒトからヒトへと感染するタイプのウイルスが誕生する可能性が十分にある」との危機意識が高まっている。 カリフォルニア州の非常事態宣言はトランプ次期政権下で新たなパンデミックが起きる前兆ではないかとの不安が頭をよぎる。 中国の非協力的な姿勢が仇となって新型コロナへの迅速な対応ができなかったが、残念ながら歴史は繰り返してしまうのかもしれない。 「トランプ次期政権は世界保健機関(WHO)からの脱退を再び検討し始めた」との情報も流れており、次のパンデミックへの危機対応に懸念が生じている。 10年以内に2度もパンデミックが発生すれば、世界の人の流れが不可逆的に縮小するのは間違いないのではないだろうか。 藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー 1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。
藤 和彦