クマムシはいつクリプトビオシスを手に入れたのか

　マパロ氏と論文の共著者らは「共焦点蛍光顕微鏡法」という技術を用いて、小さなクマムシの高解像度画像を作成した。琥珀の中に閉じ込められていた2種のクマムシは現代には生きていないが、同じ仲間に属する現生種はいるという。 　カナダの化石に加えて、米ニュージャージー州で発見されたほかの2つの化石を、現生種の分子データと比較したマパロ氏らは、クマムシがいつ進化し、その最も特徴的な能力の一つを身に着けたかを推定した。 　多くのクマムシには、クリプトビオシスという能力が備わっている。水分を排出して乾燥し、体を丸めて代謝をほぼ停止させる状態で、クマムシの場合は「乾眠」とも呼ばれる。さらにクマムシは、DNAの損傷を防ぐタンパク質も持っているため、極限環境や、さらには真空の宇宙空間であっても乾眠したまま、状況の回復を待つことができる。この先起こるかもしれない破局さえも乗り越えられる可能性がある。 　クマムシは大きくいくつかのグループに分けられる。そのうち少なくとも2つのグループが、それぞれ独自にこのクリプトビオシスを進化させたのではないかと、マパロ氏の研究チームは考えている。1つのグループは4億3000万～1億7500万年前、もう1つは3億8200万～1億7500万年前の間だ。 　さらに多くの化石を分析すれば、年代の幅は絞られるかもしれないが、この幅が重要であるとも研究者たちは指摘する。というのも、この間に何度か大量絶滅が起こっているからだ。状況が回復するまで乾眠できる能力を持ったクマムシは、酸素量の低下や気候変動など地球規模の大災害のなかでも生き延びられた可能性が高い。 「クマムシのクリプトビオシスがいつ進化したのかがわかれば、なぜ、どのようにしてこれを身に着けたのかを、時系列に当てはめて理解できるようになるかもしれません」と、マパロ氏は話す。 　クマムシは、陸上に広がる前に海の中で進化したと考えられている。ということは、海の環境からコケや地衣類が繁茂する淡水の環境に移った際、塩分濃度の変化を生き延びるためにクリプトビオシスの能力が役立った可能性がある。