フェンシングはなぜ日本の「お家芸」になったのか? 東京五輪金メダリストが語る強化の20年史
【成功した競技の課題と責任】 今回挙げた施策以外にも、国際大会誘致、合宿誘致、審判員育成などさまざまな試みが行なわれてきました。 今夏のパリ五輪では、男子エペ個人で加納虹輝選手が日本史上初の個人金メダル、同じく日本史上初の女子種目でのメダル獲得など、過去最多のメダル5個を獲得しました。レスリングと同じように日本の"お家芸"になったと認識していただいた方も多いと思いますが、本当に大切なのはこれからだと僕は考えています。 "なぜ勝てたのか"をいち早くまとめ、次世代に繋げられるよう準備しなければならないと思いますし、現場で起きていることを異なる視点から見たり、言語化、可視化していく作業が求められるでしょう。パリ五輪の熱をどのように競技界内や社会に還元していくかが今後の課題になっていくと感じています。 また、国内スポーツ界全体が変革の時を迎えており、部活動の地域移行など、その構造自体にメスが入れられています。 フェンシング競技の大半は部活動に依存しているため、既存の総合型スポーツクラブへの新規参入や専門クラブの立ち上げ、それに伴う指導者の養成など、さまざまな人材の"受け皿"を準備する必要があるでしょう。 今回のパリ五輪をきっかけに、フェンシングに興味を持ってくれた子供たちの期待に応えていくためにも、さらなる進化を期待しています。 【プロフィール】宇山賢(うやま•さとる) 1991年12月10日生まれ、香川県出身。元フェンシング選手。2021年の東京五輪に出場し、男子エペ団体において日本フェンシング史上初の金メダルを獲得。同年10月に現役を引退。2022年4月に株式会社Es.relierを設立。また、筑波大学大学院の人間総合科学学術院人間総合科学研究群 スポーツウエルネス学学位プログラム(博士前期課程)に在学中。スマートフェンシング協会理事。スポーツキャリアサポートコンソーシアム•アスリートキャリアコーディネーター認定者。
宇山賢●文・図 text & illustration by by Uyama Satoru