フェンシングはなぜ日本の「お家芸」になったのか? 東京五輪金メダリストが語る強化の20年史
このHPSCで選手たちが受けられるサポートは、フィジカルトレーニング、メディカル/フィジカルサポートに加えて、栄養、映像分析、動作分析、心理面など多岐にわたります。各専門分野のスタッフが真摯に寄り添いながら、競技力の向上や選手生命を脅かすリスクとの向き合い方などを支援しています。 さらに、これらの選手たちのサポートによって集められたさまざまなデータは「試料」として、さまざまな研究や国内外のスポーツ医科学発展、そして後進の選手育成にも活かされています。 2012年のロンドン五輪以降は、開催地に"村外拠点"という形のサポートハウスを設置し、オリンピック期間もHPSCと同様のサポートが受けられるようになりました。 フェンシングは、パリ五輪で重点支援競技の「Sクラス」に指定されたことから、サポートハウス内に専用練習場が整備され、選手が最高のパフォーマンスを発揮するための環境が整いました。この恩恵によって、本番での好成績に繋がったと言っても過言ではないと思います。 今後のHPSCを活用していく方法については、中央競技団体(フェンシングの場合は日本フェンシング協会)が舵を切っていくことになるでしょう。 競技によっては、クラブチームや企業チームで練習する合間にHPSCを利用するケースも考えられますが、フェンシングに関してはHPSCを国内の活動拠点にしていくことになると思います。長期的に同じ選手を管理しながら強化できる点については、個人競技であり、国内の競技人口が7000人弱の"マイナースポーツ"であるフェンシングの現状を踏まえても、強化に及ぼすさまざまな利点があると考えられます。 【タレント発掘事業の成功】 競技力の向上には、世界で戦える才能を持つ選手たちの発掘に成功したことも、メダルラッシュの要因として挙げられます。 パリ五輪の女子サーブル団体で銅メダルを獲得した福島史帆実選手と高嶋理紗選手は、いずれも福岡県の出身。2004年からスタートした福岡県のタレント発掘事業によりフェンシングと出会い、競技を始めた選手たちです。 同事業では、小中学生を対象に体力測定などを行ない、ステッピングの俊敏性や道具を操作する巧緻性(こうちせい)など、フェンシングに必要なスキルに長けている選手に対し、競技への誘引を積極的に実施しているようです。このような施策は各競技団体や学校、地域クラブなどとの連携が欠かせないので、周囲との協力によって成果を手繰り寄せたと言っていいと思います。