増殖する外来生物と在来生物の「交雑種」 放置し続けてもいい問題なのか?
外来遺伝子に浸食される、ニホンザルの遺伝子組成
千葉県の房総半島ではアジア大陸産のアカゲザルが定着しており、現地のニホンザルと交雑していることが遺伝子解析によって確認されています。外見上は、雑種個体はニホンザルと見分けがつかず、知らず知らずのうちにニホンザルの遺伝子組成がアカゲザルの遺伝子に浸食されていく事態を動物学者たちは憂慮しています。 同様に和歌山県では台湾産のタイワンザルが分布を広げて、ニホンザルとの交雑種が増えていることが問題となっています。こちらのケースでは、尻尾の長さが両種の間で明確な差があり、雑種はその中間的な長さになるという特徴があります。
アカゲザルおよびタイワンザルに対して、農作物等に対する被害に加えて、この交雑のリスクを理由として、環境省は2005年に「外来生物法」の特定外来生物に指定しました。これを受けて、各地で外来サルと雑種の個体を捕獲する事業が進められましたが、その処分を巡っては賛否両方の意見が地方自体や環境省に寄せられており、ニュースにもなりました。
外国産クワガタムシの飼育ブームがもたらしたもの
1990年代から2000年代にかけて外国産クワガタムシの飼育が大ブームになりましたが、特に外国産ヒラタクワガタが人気で大量に海外から輸入されました。ヒラタクワガタ(学名Dorcus titanus)は、日本列島のみならず、東アジアおよび東南アジア域にも広く分布しており、地域ごと、島ごとに独自の形質をもつ集団=亜種に分化しています。 国立環境研究所が日本国内および海外に生息するヒラタクワガタ地域集団のDNA変異を調査した結果、アジア全体のヒラタクワガタは500万年以上の時間をかけて、多様な遺伝的系統に分化しており、形態上の亜種内にもさらに細かく分化した地域系統が含まれていることが明らかになりました。日本列島内にも島によって異なる遺伝子組成をもつ集団に分化しており、遺伝的多様性と固有性の高い種としてアジアのヒラタクワガタは存在します。 ところが日本人がペットとしてこれらの地域集団を移送することで、異なる遺伝的系統の間で雑種が生じる恐れがあります。実際に日本産ヒラタクワガタと東南アジア産ヒラタクワガタを実験的に交配すると、両者の形質を受け継いだ雑種が生まれることが示されています。さらに雑種同士をかけあわせると次の世代が誕生し、さらに次の世代に繋がる、という具合に雑種には妊性があることも示されています。 このことから、もし、野外で雑種が生じたら、日本産集団のなかに外国産ヒラタクワガタの遺伝子が容易に拡散していく可能性があります。実際に国内から、外国産系統の遺伝子をもつ個体が採集された記録もあり、今後も遺伝子撹乱が生じていないか詳細な調査が求められます。