バイデン一本化でトランプ再選は? コロナ対応が決める米大統領選
世界中で猛威を奮っている新型コロナウイルスはアメリカの大統領選にも影を落としています。民主党では、ジョー・バイデン前副大統領と大統領候補の指名争いを繰り広げていたバーニー・サンダース上院議員が撤退を表明。今年11月の大統領選は共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン氏の対決となることが確実となりました。 【写真】アメリカ二大政党制の岐路(2)民主・共和両党の「リベラル」「保守」分極化 今やアメリカは感染者数、死者数とも世界で最も多い国になっています。新型コロナウイルスはトランプ大統領の再選戦略にどんな影響を与えるのでしょうか。アメリカ政治に詳しい上智大学の前嶋和弘教授に寄稿してもらいました。
◇ サンダース撤退で民主党はバイデンが事実上の指名候補となった。サンダース撤退の背景には何があったのか。また、バイデンはトランプにとっては戦いやすい相手なのか。コロナウイルス感染拡大と今後の大統領選挙の動向について考えてみたい。
仕方なかった……サンダース撤退
サンダースが撤退を決めた4月8日(アメリカ時間)時点で、予備選の結果に応じて配分される代議員数は、全代議員3979人のうち、58%の2302人と4割が未決の状態だった。この段階で獲得代議員数はバイデン1217人、サンダース914人と両者の獲得代議員数の差が300程度だった。そうだったことを考えると、サンダース大逆転のチャンスがなかったわけではない。 しかし未曽有の新型ウイルス感染拡大の中では、このタイミングでの撤退は仕方なかった、というのがサンダースの本音だろう。今後予定されている予備選の多くの州ではバイデンが優位であり、各州での結果は比例配分であるため、今後の選挙戦でバイデンを上回るには圧倒的な勝利を重ねないと難しい。そのためには選挙集会を繰り返し、支持者を広げていかなければならないが、コロナ禍でそれも難しい。 ネット上で語り掛けても、感染対策を訴えるトランプ大統領や、すっかり民主党の「顔」となったニューヨーク州のクオモ知事の二人がテレビを独占している。バイデンよりも優位だったはずの資金集めのペースも一気に弱まってしまった。 ただ、民主党内の分裂というイメージが広がってしまうのが、何よりもサンダースにとって大きかったのだろう。「トランプの再選は許さない」というのが民主党側の至上命題だが、サンダース撤退時点のペースで考えると、コロナ禍でオンラインでの開催が検討されている夏の全国党大会までに、バイデンが獲得できそうな代議員は、過半数(1991人)を超える程度である。何よりも頑張れば頑張るほど、「サンダースは民主党を割る」という印象が強くなってしまう。 特に、サンダースの主張する争点は民主党を割る結果にもなっていた。医療保険の国有化や大学無償化、学費ローン徳政令、気候変動対策は極めて全て重要な政策で、若者には共感を呼ぶ。サンダースの言う「未来型」の政策である。 ただ、国民の保険の保有率は9割程度であり、少し年齢が上の民主党支持者の大多数は既に何らかの保険を持っている。また、民主党の支持母体である労組の中には、対応が充実した保険プランを企業から勝ち取っているケースも少なくない。学費もすでに払い終わった層には「今後余計な負担を」と見えてしまう。製造業が集中するいわゆるラストベルトの各州では、サンダースが環境政策を叫べば叫ぶほど、逆効果になる部分もあった。 サンダースにとっては、党大会で採択する今後4年間の民主党の党綱領などに自分の主張を含めるように働きかける一方で、撤退を決め、バイデンに託すしか方法はなかったといえる。