「なんで私が全部?」こぼれた涙 一人娘が背負った「トリプル介護」
3人をみとり
母の葬儀を終えてからは地元を離れ、暴力をふるうようになった父とも縁を切った。娘は数年前に結婚。自身を苦しめた家の継承に終止符を打った。 穏やかな生活を手に入れた里美さんは、壮絶を極めた日々を時々思い起こしては、こんな実感を深める。 「介護は誰でも大変だけれど、一人っ子は特に、全てやらなければと背負い込んでしまう。でも24時間365日、休みなく1人ではとてもできない」 現在も介護福祉士として働く里美さん。勤務先の利用者の家族には「つらい時や1人ではどうにもならない時は、遠慮なく声を掛けてください」と折に触れて伝えるようにしている。 相手をみとった時に、介護は終わる。残された側が前も向けないほど擦り減らないように……。長男の一人娘として3人をみとり、新たな人生を歩む里美さんの切なる思いだ。
一人っ子は「介護担当」?
一人っ子は親との関係が密接になりやすい。 大阪経済大の苫米地なつ帆准教授(家族社会学)は国立社会保障・人口問題研究所の「全国家庭動向調査」のデータ(2003~18年の4回)を独自に分析。18歳以上の子どもが親と同居している割合は性別や出生順位にかかわらず年々減少傾向だった。 ただ、きょうだいの有無で見ると、一人っ子男性の同居割合は41・1%(18年)で、きょうだいがいる第1子男性の約1・5倍、第2子男性の約1・4倍に上った。 一人っ子女性は38%(同)で、きょうだいがいる第1子女性の2倍、第2子女性の約1・4倍だった。18年以外の3回の調査も同様で、一人っ子は進学、就職を経ても親と同居する傾向がみられた。 また、家計への支援やプレゼントの贈答など親子の経済的援助関係を分析すると、一人っ子はきょうだいがいる人に比べて、親子が相互に援助し合う傾向があった。 苫米地准教授は「親との関係が密で、頼れる家族が親以外にいない一人っ子は、介護においても負担を1人で抱える可能性が高い」と指摘する。「介護サービスはあっても、介護は家族で担うものだとの意識を持っている人は少なくなく、一人っ子は『介護担当』になりやすい構図がある。家族以外の外部に頼れる仕組みをより一層整えていかなければならない」と訴える。【小林杏花、野原寛史】 ※この記事は毎日新聞とYahoo!ニュースとの共同連携企画です。