<木材の価値は何で決まる?>「節」「木目」はどうしてできるか、枝打は多様な目的もつもコスパの悪い作業
幅広い枝打の効能
スギ、ヒノキが造林樹種として優れている点の一つに、虫害が少ないことがあげられる。しかし、まったくないわけではなく、穿孔(せんこう)性害虫であるスギノアカネトラカミキリによる被害が徐々に広がっている。 松くい虫やナラ枯れのように樹木自体が枯れるわけではないので、外観上はわからない。枯れ枝に産み付けられた卵から孵化(ふか)した幼虫が、枯れ枝の中を通って幹内に穿入(せんにゅう)して加害する。被害は、トビグサレ、トビムシなど地域によって呼び名が違っている。被害材は、外見からは分からず、材の変色や腐朽となって製材時に現れ、著しく材価を低下させる。 その防除方法としては、枯れ枝をなくす枝打が有効である。しかし、そのために林全体で枝打することは、費用対効果の観点から論外で、具体的な対策が見いだせないのが現状である。枝打はボランティア向けの作業として非常に喜ばれることから、トビグサレの予防を兼ねてやってもらうと非常に助かる。 枝打から話はそれるが、スギカミキリという穿孔性害虫もいて、これはスギやヒノキのめくれあがった樹幹粗皮の裏側に産卵し、羽化した幼虫はそのまま内樹皮(ないじゅひ)に穿孔する。この被害はハチカミと呼ばれ、材の変色や腐朽をおこし品質を低下させる。粗皮が剥げやすいのは直径成長のよい木であり、防除するには粗皮剥ぎを行う。
さて写真3を見てほしい。左側と右側の違いが分かるだろうか。ほぼ同齢のヒノキ林だが、左は明るく下層植生がある。右は暗く下層植生はない。この違いはどこからくるのであろうか。 正解は、枝打の有無である。左は枝打をしているので、光が林床に届き植生が入ってくる。生物多様性とか環境面からは左がよさそうであるが、造林木の葉の量が枝打によって減っているので、成長量は右がよいだろう。それぞれの森林所有者の考え方次第である。 それにしても枝打は、コスパの悪い作業であるから、環境面の森林の機能向上や害虫防除を目的に行うなら、補助事業の対象としてもよいのではないか。やっと50年生になったばかりの並材を伐採するのに補助金を使うより、枝打を行って生物多様性を高め、害虫を防除して伐期を延長する方が、社会のためであり、品質向上によって森林所有者のため、林業界のため、消費者のためにもなる。