町田のロングスローが批判の的に 短いことの是非も…“世界への武器”となり得るAPT【コラム】
町田は「故意にスローインで時間をかけているのでは」と思われている
町田に対する批判が集まったもう1つの原因は、町田がタオルで拭く行為が意図的にプレーイングタイムを削るために使っていると思われたからではないか。確かに町田のアクチュアル・プレーイングタイムはJ1の20クラブ2番目に短い(48分53秒)。その点もあって故意にスローインで時間をかけているのでは、と思われている この点については、2023年ならそう思われても仕方がなかった。実際、天皇杯では西村雄一主審からタオルで拭く行為を短くするように注意された。そのこともあったのか、2024年は前年に比べれば拭く回数は明らかに減っている。それでも他チームに比べると目立ってしまい、余計に時間を稼いでいると受け取られたと考えられる。 では、根本的に、アクチュアル・プレーイングタイムは長ければいいのか。エンターテインメント性は高くなるだろう。逆に言えば、アクチュアル・プレーイングタイムが短いというのは、そういったエンターテインメント性を削って、勝負に徹しているとも言える。 たとえば、弱いチームが強豪を相手に1点を先行したとき、逃げ切るために時間稼ぎを続ければ、アクチュアル・プレーイングタイムは必然的に短くなる。日本が強豪国を相手にリードを守るため、ボールを蹴り出し続けてタイムアップを狙ったとしたら、おそらく日本国内では称賛されるだろう。アクチュアル・プレーイングタイムが短いチームというのは、そういう戦いを繰り返しているに過ぎない。 対してアクチュアル・プレーイングタイムが長いチームというのはプレーを続けることで相手を、特に相手の思考力を疲れさせようとする。短いチームは連続してプレーすることに慣れていないからだ。つまり、アクチュアル・プレーイングタイムは勝負における駆け引きの材料だとも言える。 アクチュアル・プレーイングタイムが長く、観客がピッチから目を離すことのできる時間が短いゲームは楽しいが、勝負を優先して考えれば、短いのにも意味がある。特に優勝や残留がかかるこの時期は、どうしても勝ち点を奪うために、時間稼ぎが増える。 アクチュアル・プレーイングタイムが長くなるのは大いに結構。だがこの終盤戦においては一旦、目をつむって“勝負”を楽しむのが正解ではないだろうか。 アクチュアル・プレーイングタイムを金科玉条のように追い求めることは、あまりに生真面目で、勝負の彩を無視しているように思える。そしてアクチュアル・プレーイングタイムについて論じようとしたこのコラムも、こうやってやたらと真面目なものになってしまった。 [著者プロフィール] 森雅史(もり・まさふみ)/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。
森雅史 / Masafumi Mori