NASA、月で氷の探査を目指していた「VIPER」ミッションの中止を発表
アメリカ航空宇宙局(NASA)は2024年7月17日付で、月の南極周辺で氷などの探査を行う予定だった無人の探査車(ローバー)によるミッション「VIPER(Volatiles Investigating Polar Exploration Rover)」を中止すると発表しました。【最終更新:2024年7月18日12時台】 直近のロケット打ち上げ情報リスト VIPERは月の南極周辺に探査車を送り込み、永久影に埋蔵されているとみられる氷(水の氷)の採取・分析を目指していたミッションです。高さ約2.5m・重量約430kgの探査車には長さ1mのドリルと質量分析計が搭載されており、100日間のミッション期間中に表面下からサンプルを採取して水やその他の揮発性物質の分析を行うことが計画されていました。 VIPER探査車はNASAの商業月輸送サービス(CLPS)の下で、アメリカの民間企業Astrobotic Technology(アストロボティック・テクノロジー)の無人月着陸船「Griffin(グリフィン)」によるミッション「Griffin Mission One(GM1)」で月面まで輸送する契約が2020年に締結されていました。GM1の着陸目標地点は月の南極近くにあるノビレ・クレーター(Nobile、直径79.27km)の西縁付近に位置するMons Mouton(モンス・ムートン、ムートン山)です。
NASAによるとVIPER探査車は当初2023年後半に打ち上げられる予定でしたが、Astroboticの着陸船の飛行前試験に費やす時間を確保するべく2024年後半に延期することを2022年にNASAが要請。その後もスケジュールの遅延やサプライチェーンの問題によって、GM1の打ち上げ時期は2025年9月まで先送りされています。延期によるコスト増加や他のCLPSミッションへの影響を考慮したNASAは、包括的な内部審査の結果、VIPERミッションの中止を決断するに至りました。NASAはVIPER探査車を搭載しないGM1がGriffinおよびそのエンジンの実証飛行になると述べています。なお、GM1ではAstroboticが開発した小型探査車「CubeRover」や欧州宇宙機関(ESA)の着陸用カメラ「LandCam-X」などもペイロードとして搭載される予定です。 Astroboticは同社の月着陸船「Peregrine(ペレグリン)」による初の月着陸ミッション「Peregrine Mission One(PM1)」を2024年1月に実施しましたが、推進システムで問題が発生したため月着陸を断念。着陸船の制御は最後まで失われることはなく、ペイロードとして搭載されていた科学機器を可能な限り動作させた後、地球周辺や地球と月の間の空間(シスルナ空間)でスペースデブリ(宇宙ごみ)が生じるのを防ぐため、着陸船を南太平洋上空で大気圏に再突入させてミッションは終了しています。 NASAはすでに組み立てが完了しているVIPER探査車を今後分解し、機器類を別の月探査ミッションで再利用することを計画しています。分解に先立ち、NASAは政府に出費させることなくVIPER探査車を再利用することに関するアメリカの産業界や国際パートナーからの関心表明を2024年8月1日まで受け付けるとしています。また、GM1のGriffinが予定通り飛行できるようにするために、VIPER探査車と同じ重量のダミー(質量シミュレーター)を提供することも計画されています。