「現金は今後も大きな役割」と日銀総裁-渋沢栄一など新紙幣発行
(ブルームバーグ): 「日本の資本主義の父」と称される渋沢栄一の肖像が描かれた1万円札など3種類の新たな日本銀行券が3日、発行された。日本ではキャッシュレス化が進む一方で、依然として現金のニーズも多い。政府は20年ぶりに新紙幣を導入し、偽造防止対策の強化を図る。
紙幣の改定は財務省が2019年、肖像が立体的に見える3Dホログラムの世界初採用など、新たな偽造防止対策の導入と併せて肖像画に採用する人物を公表した。5千円札は女性の地位向上に尽力した教育家の津田梅子、千円札は近代医学の基礎を築いた微生物学者の北里柴三郎に交代する。新紙幣は来年3月末までに74億8000万枚が印刷される計画だ。
日銀の植田和男総裁は新紙幣の発行開始に際してのあいさつで、「キャッシュレス化が進展しているが、現金は『誰でも、いつでも、どこでも、安心して使える』決済手段であり、今後とも、大きな役割を果たしていく」との認識を表明。岸田文雄首相による日銀本店視察後の共同記者会見では、「日銀としては現金に対する需要がある限り、責任を持って供給してまいりたい」と語った。
岸田首相は共同会見で、新紙幣は「世界最高水準の偽造防止技術を搭載している。目の不自由な方や外国人の方にも配慮したデザインとなっている」と説明。日本が30年ぶりに成長型の新たな経済ステージに移行しようとしている中で、「時代にふさわしい紙幣である」と述べた。
日銀のデータベースによれば、紙幣の流通量は足元でやや減少しているものの、過去数十年の推移で見ると増加基調をたどっている。23年12月末時点で国内に流通する紙幣は金額で124兆6000億円、枚数では185億4000万枚だった。
経済産業省の調べでは、日本のキャッシュレス決済比率は23年に39.3%と右肩上がりに伸びてきたが、20年時点で80%超の韓国や中国に比べると大きく下回る。災害発生時の決済手段としての利点や、キャッシュレス決済の利用が困難な人に必要とされているなど、日本では現金のニーズが根強い。さらにキャッシュレス化が進んでも、偽造防止対策強化のための紙幣刷新は不可欠だ。