「走る宝石」「神がかってる」パガーニ・ウトピア、数億円のハイパーカーの実力は?【試乗記】
パガーニ・ウトピア(=ユートピア)は、“創造主”ホレーシオ・パガーニの情熱が結実した世界最高峰のイタリアンドリームカーである。ゾンダ、ウアイラに続く第3世代のロードカーとなるウトピアのコンセプトは「シンプル+ライトウェイト+ドライビングファン」。最先端のカーボンファイバーテクノロジーが投入され、完全新設計のシャシー&ストラクチャーを採用。リアミッドにメルセデスAMGが、パガーニのためだけに開発・生産する6LのV12ツインターボ(864hp/1100Nm)を搭載する。車重は1280kg。まさに“走る宝石”という表現が似合う1台である。 【パガーニ・ウトピアの写真はこちら】 ● 最近のスーパーカーでは 得難い経験 パガーニ・ウトピア。その走りはまさに神がかっていた。 最新モデル、しかもハイパーカーとしては異例の3ペダルミッションを備えている。その扱いに気難しさはない。けれども手足を駆使して数億円のハイパーカーを操るという行為そのものに緊張する。 走り出せば、乗り心地のよさにまず感動した。ウアイラよりはっきりとコンフォートだ。それでいて車体がさらに引き締まっているように感じる。人馬一体感も大いに増していた。 オープンロードでスロットルを深く踏み込む。V12エンジンの咆哮が後頭部をつんざき、振動が腰を刺激して、メカニカルノイズが脳のテンションを大いにあげる。鞭を打たれた駿馬のように、その加速レスポンスは瞬発的であった。
タイトベントではまるで上半身がフロントアクスルと一体となったかのよう。フロントの両輪を両腕で抱え込んで動かしている感覚があって、動きはつねに正確、狙ったラインにタイヤを置きやすい。それはある程度、速度を高めても変わらなかった。 あっという間に約束のテスト時間を終えると、背中がぐっしょりと濡れていた。空調が効かなかったわけじゃない。興奮と感動の汗だ。最近のスーパーカーでは得難い経験である。 ● 開発コンセプトはスポーツカーの王道 スパルタンとラグジュアリーが融合した“走る宝石” ホレーシオ・パガーニがランボルギーニを辞し自らのデザイン会社“モデナデザイン”を設立してちょうど30年が経った2022年、自らの名を冠したハイパーカーの第3世代ウトピア(=ユートピア)が発表された。初代ゾンダ、2代目ウアイラが大成功を収め、いまや世界で最も高価で豪華なスーパーカーとして確固たる地位を築いた。 ウトピアの開発コンセプトは、豪華絢爛な内容とは裏腹に、至ってストレートである。“シンプル+ライトウェイト+ドライビングファン”。スーパーカー、否、スポーツカーにとってこれ以上なく明快なコンセプトであり、ほとんどマツダ・ロードスターの世界観のようである。 そもそもパガーニ製ハイパーカーのコンセプトの源は何か。Cカーに代表される1990年代のスポーツプロトタイプの設計を元ネタにし、ビス1本に至るまで軽量かつ高価な素材を惜しみなく使って、レーシングカー的でスパルタンなマシンでありながら、とびきりラグジュアリーに仕立てた、まさに“走る宝石”、である。 久しぶりにモデナ近郊にある本社ファクトリーを訪れた。朝9時に到着すると、すでに10人近くの観光客が門の前でたむろしている。ミュージアムとショップのオープンを待っているのだ。歴代モデルをはじめ、ホレーシオが学生時代に製作したフォーミュラーカーや100万㎞以上に及ぶ走行試験に耐えたモノコックボディのテストカーなど、貴重な展示品を観察できるとあって、クルマ好きの観光客には、マラネッロやサンタガータと並ぶ人気スポットになったようだ。 テスト車両はミュージアム裏側でわれわれを待っていた。英国グッドウッド・フェスティバルから戻ったばかり。シャンパンゴールドの車体だが、イベント用にマットグリーンのフィルムを大胆に貼ったままで現れた。足元にはスポーツパッケージの象徴であるカーボンリムとパガーニ専用開発のPゼロ・トロフェオRSが奢られている。この仕様で公道を走る世界最初のジャーナリストに選ばれたようだ。