5年に1度の財政検証で判明! 誤解だらけの「年金」
■年金収入は現役世代の「50%」 ――では年金財政が改善すると、僕らにとって具体的に何が起きる? 高橋 財政検証で特に重視されるのが「所得代替率」という指標です。これはモデル世帯(高齢者夫婦)の年金額が、現役世代男性の平均手取り収入の何%にあたるかを示すもので、政府は100年後もこの指標が50%を上回ることを年金運営の目標としています。 ――要は、現役世代の収入の半分は年金受給者ももらえるようにしてるってことですね。 高橋 はい。なお、現状の所得代替率は61.2%です。残念ながら、これが年々減少していくのは既定路線。 とはいえ日本経済が現状維持、つまり過去30年程度の低空飛行が今後も続いたとしても、2057年に50.4%になったところで所得代替率は下げ止まる見込みです。つまり、今35歳の人が70歳になる59年以降も、その時点の現役労働者の半分程度の収入は年金が賄ってくれます。 ――50%を割り込むことはないんですね? 高橋 ええ。50%を割り込まないことを目標に、今のうちから年金給付をじわじわ削ったり、積立金を活用したりといった調整をしていくわけです。 ――なるほど。とはいえ、所得代替率は今の高齢者に比べて1割以上減るのかぁ......。 高橋 その不満はわかります。ただ、財政検証では「実質年金額」という指標も示されていて、これにも注目する必要があります。これは将来の年金給付額を、現在の通貨価値に換算したものです。 今後の日本経済や出生率などが現状維持レベルで続くと仮定した場合、高齢者のモデル世帯で57年には月21.1万円が給付されます。今年度のモデル年金額が月22.6万円ですから、33年後の年金給付も今とほぼ同じくらいの価値があるということになるんです。 ――ん? 所得代替率が下がるのに年金の価値がほぼ変わらないなんておかしくないですか? 高橋 おっしゃるとおり、ここが今回の財政検証で一番わかりにくくて、かつ一番大事なところなので、しっかりご説明しますね。 所得代替率が下がっていくのに年金給付の価値がほぼ変わらないことの裏側には、賃金が物価以上に上昇していくという想定があります。 ――でも、今って実質賃金は26ヵ月連続マイナスですよね? 高橋 ええ。ただ、実質賃金は本来、景気動向によって上がったり下がったりするものです。直近の数年が下がっているからといって、この先数十年を見通すときに下がり続けると仮定するのは、むしろ悲観的すぎて現実的な想定になりません。