「ちきゅう」の南海トラフ掘削プロジェクト 世界初の取り組みの今
提供:JAMSTEC/IODP
過去に何度も大きな地震を起こしていて、近い将来の地震発生も危惧されている南海トラフ。その深い領域で地震を発生させると考えられている場所は、いったい今どのような状態にあるのか。その謎を、実際に海底を掘っていくことで探ろうとする世界初の国際プロジェクトが現在、進められている。 南海トラフ地震 「臨時情報」空振りも地震対策強化につなげる姿勢が肝心
ライザー掘削が可能な地球深部探査船「ちきゅう」
南海トラフは、日本列島がある陸のプレート(岩板)の下にフィリピン海プレートと呼ばれる海のプレートが沈み込んでできた溝状の地形。沈み込んだ先の陸のプレートと海のプレートの境界では、ひずみが徐々に蓄積され続けていて、このひずみにプレートが耐えきれなくなった時に一気に大きくすべることで、巨大地震が発生すると考えられている。このひずみをため続けている場所まで掘り、岩石の性質などを調べることで、これから地震を起こそうとしている場所がどうなっているのかを探るのが今回のプロジェクトの目的だ。 海底を掘り進めているのは、海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」(5万6752トン)。全長210メートル、型幅38メートル、船底からの高さ130メートル。縦に中央に空いたムーンプールと呼ばれる穴と海底の掘削場所の穴をパイプでつなぎ、その中にドリルパイプを降ろして特殊な泥水を流しながら掘っていく「ライザー式掘削」ができる世界初の船だ。ライザー式掘削によって、深い場所でも比較的安定した掘削が可能になる。
科学掘削世界最深記録を達成したが…
2018年10月10日、静岡県の清水港を出港したちきゅうが向かったのは、紀伊半島沖の熊野灘。1944年の昭和東南海地震の震源域の中でも一番浅いと考えられている場所だ。この場所では、過去に水深1900メートルの海底からさらに約3000メートルの穴が掘られたが、今回のプロジェクトでは、さらにこの穴を掘り進め、地震を発生させるプレート境界付近である海底下約5200メートルを目指している。 熊野灘到着後、掘削を開始するための様々な準備を経て、11月から従来からある縦の穴のサイドに穴を開け、そこから下に向けて掘り進めた。穴の直径は20~30センチ程度。 12月3日には、石油や天然ガスの採掘を目的とした商業掘削ではない科学掘削における海底下掘削深度記録3058.5メートルを更新。同7日には、同じく科学掘削世界最深記録3262.5メートルを達成した。