【漫画家・江口寿史氏インタビュー】古いチューダーやロレックスも好きだけど80年前後のちょっとダサいデジタル時計も好きなんですよ!
―――江口先生としてはどんなアイディアがあったんですか? 「元ネタになった1970年代の傑作ツールウオッチは、白文字盤ってなかったですよね。だから白文字盤モデルをどうしても作りたかった。それで黒文字盤はトロピカルにするといいんじゃないかって菊地さんと相談して決めて、両方ともちょっと色褪せたヴィンテージ感を出したかったんですよね。ただ、特に白文字盤は色味を決めるのが難しかった。微妙なトーンを出すために工場と7回くらいやり取りして、色味を補正してもらったんですよ。オートミールっぽい少し黄ばんだ感じの色調整がなかなか大変でした。あとは針が想定していたものより太すぎたり、インデックスの夜光塗料のオレンジもトーン調整したり、ディテールはかなり追い込んでいきました。ケースの形状はかなりオリジナルを意識したし、ベゼル幅も含めてデザイン的に近いものになっていると思います。時計って小さいものだけに、パーツの配置が微妙で難しいんですよ。しかも今回はお手本となるモデルがあったので、本家のニュアンスを生かしつつ、オリジナリティも出すっていうのが苦労したポイントでした」 ―――時計に付属するレコードジャケットサイズの複製画も今回のために描き下ろしですね。 「時計自体にイラストが入ってないし、僕のファンはイラストが欲しいと思うんで、まぁサービスって感じですね。最初はボックス用にイラストを描いてくれって言われていたんだけど、箱のサイズだとイラストが小さくなっちゃうんで、レコードジャケットサイズのポスターを添えましょうと提案したんです。若い女の子がこういう無骨な時計をしている雰囲気が好きで、そういう子を見かけるとイケてるなって思うんです。そんな想いを込めてイラストにしてみました。だけど時計を描くのはめんどくさいんですよね。パースも難しいし、小さいところにギュッといろいろな要素が詰まっているから、バランスが取りにくいんですよ。時計って無機物だけど、無機物でも色気やチャームがあるものってそれなりに艶かしくなるんですよ。ギターを描くときもそうなんだけど、気持ちとしては女の子の絵を描くときとまったく変わらないですね。描くの面倒くさいけど(笑)」 ―――モデル名として先生が考えた「オーバータイム(OVERTIME)」はどんな思いから付けたのですか? 「オーバータイムの直訳は時間外とか残業とかいう意味ですが、延長戦という意味もあって、僕としてはどちらかというとこっちの意味でつけました(笑)。さあまだチャンスはあるぜ、という(笑)。それとあんまり時間に縛られないで、休むときは休もうねというメッセージを裏ブタの、枕を抱えて寝ぼけた表情の白いワニに込めてます」 ―――今後ももっと時計を手がけてみたいという気持ちはありますか? 「もし第2弾があるなら、デジタル時計を作ってみたいですね。デジタルだとデザインの自由度も高まるし、自分なりのオリジナリティももっと出せるんじゃないかな。そのときは元ネタなしで、僕が子どものときに想像していた近未来感がうまく出せるといいなって思います」 [アウトライン公式サイト] https://outlinewatches.tokyo 取材・文◎巽 英俊/写真◎編集部、プロフィール部分◎本人提供