劇物アンモニアを包み込み常温で固体、取り扱い楽に 兵庫県立大
通常は常温で気体のはずのアンモニアを、固体の状態で安定させることに成功した、と兵庫県立大学の研究グループが発表した。ホウ酸の集合体で包み込むことで実現した。次世代エネルギーの水素を貯蔵する手段として注目されるが劇物であるアンモニアを、飛躍的に取り扱いやすくする可能性を秘めた成果だ。この結果は当初から狙ったものではなかったといい、研究者は「自然の神秘に驚かされた」と振り返る。
キタイが大きいのに、キタイで扱いにくい物質
アンモニアは肥料や化学製品の原料として長く使われてきたが、近年はエネルギー分野で期待が高まっている。太陽光や風力といった自然エネルギーの発電は気象や時間帯などに左右されるため、必要な時に電気を取り出せる蓄電技術が必要だ。そこで、発電した電気で水を分解して水素を発生させ、貯めておく方法が有望。水素を大気中などの窒素と反応させ、アンモニアにして貯蔵することが注目されている。このアンモニアの製法は「ハーバー・ボッシュ法」として高校化学の教科書にも登場する。
融点が零下78度、沸点が零下33度のアンモニア。常温では通常、無色透明の気体で、強い刺激臭や毒性があり、劇物に指定されている。約8気圧で液体となり、ボンベで保管する。広く普及させるには安全でより効率の良い貯蔵、運搬法を編み出し、扱いやすくしたいところだ。
さて今回のニュースは、そんなアンモニアを何かで包むと、常温なのに固体にでき、社会がオイシく味わえそうだということらしい。化学に疎い筆者は「『アイスクリームの天ぷら』みたいな話だな」と興味を抱き、研究を率いた兵庫県立大学名誉教授の森下政夫さん(化学熱力学)に連絡を取った。森下さんは同大を今年3月に定年退職しており、引退することも考えたが、今回の成果を機に「研究を止めにくくなった」と一念発起。4月から物質・材料研究機構で特別研究員として活動を続けているという。
5年前から思案していた実験、いざ挑戦
取材の冒頭、筆者はこう尋ねた。「アンモニアを常温で固体にできれば小さくでき、しかも劇物なのに楽に扱える。こんなブレークスルーを目指して実験に臨んだのですね」。ところが森下さんは「うーん」と、しばし沈黙。「確かに、後から話を整理したら、そんな話になるでしょうね。と言うのも…実は論文やプレスリリースには表現しきれなかったのですが、研究は元々、全く別のことを狙っていたのです」と明かしてくれた。