劇物アンモニアを包み込み常温で固体、取り扱い楽に 兵庫県立大
エネルギー利用、一大変革の可能性
アンモニアを常温で固体として取り扱えれば、人類にとってはるかに優しい物質になる。水素を貯蔵する物質としても、利用可能性が広がる。「これまで人間は、固体のアンモニアを工業材料として扱う発想を持っていなかった。もし実用できれば、エネルギー利用の革命的な変化につながる可能性がある」(森下さん)。 この成果は英王立化学会誌「RSCアドバンシズ」に5月27日に掲載され、兵庫県立大学が先月25日に発表した。
今後の課題は何よりも、アンモニアが常温で固体を保つメカニズムの解明だろう。ここには、何らかのエネルギーが作用しているはず。筆者が取材前に連想した「アイスクリームの天ぷら」だと、衣の中のアイスクリームは冷たさを保っている。それに対しこの成果では、中身のアンモニアが常温なのに固体である点が根本的に異なり、ここにこそ解き明かしたい謎があるようだ。
この謎に関わっていそうなのが、ホウ酸を構成するホウ素(B)と、アンモニアを構成する窒素(N)による、強固で知られる「B-N結合」。この結合か、結合によって拘束されたアンモニアに生じる圧力が作用していそうだという。
アンモニアから水素を取り出すには、400度以上に加熱する必要があるが、森下さんは、より低温で済ませる方法も研究している。また実験ではアンモニアを固体にするため零下196度の液体窒素を使ったが、より高温で行う方法も検討の余地があると言う。
やってみないと分からない、科学の魅力
「水素エネルギーという実用の点で有望な成果です。ただ私が面白いと感じたのはそれ以前に、130度も固体の状態を維持できること。これには驚き、自然の神秘を感じました。アンモニアは基礎科学として面白い物質で、宇宙に豊富にあります。例えば太陽系では天王星や海王星の内部などにみられます。生命誕生に不可欠なアミノ酸にも関連します」(森下さん)。 今回の成果は、努力を続ける人が偶然、狙っていたものとは別の価値ある事柄を見いだすことを意味する「セレンディピティー」の産物と言えそうだ。科学技術史上、エックス線やペニシリンの発見などが、セレンディピティーの代表例として語られる。研究は地道な作業で、出口を見込んだ通りの予定調和の展開ばかりとは限らない。