十人十色の武器を育てる~通信制高校、教育革命の全貌
世界で活躍する選手たちも~日本一生徒数が多い高校
囲碁の上野愛咲美五段(22)は攻撃的な棋風から「ハンマーパンチ」の異名を持つ女流棋士だ。この秋、中国で開催されたアジア大会では銅メダルを獲得している。フィギュアスケートの紀平梨花選手(21)、テニス元ジュニア世界1位の望月慎太郎選手(20)、パリ・パラリンピックの代表が内定した車いすテニスの小田凱人選手(17)……世界で活躍する彼らはみなN高等学校、通称N高の卒業生と在校生だ。 【動画】大人気!N高等学校の全貌
「いろいろなアスリートの方が在籍していて視野が広がり、N高いいぞ、という感じです」(上野さん) N高は2016年、出版大手の角川とIT企業のドワンゴが共同で設立した通信制の高校。本校は沖縄・伊計島にある。ネットを使い全国で学ぶ生徒の数は日本一の約2万6000人(S高含む)。進学実績は高い。昨年度は東大、京大を含む国公立に113人、早稲田(55人)、慶應(39人)などの難関私立大学にも多数の合格者を出した。さらに世界大学ランキングで東大の上を行く海外の難関大学に合格した生徒も19人にのぼる。
3年生の須藤隼人さんはシステムエンジニアのお父さんの影響で、幼い頃からプログラミングに熱中してきた。だが、「中学時代に体調を崩して学校に行けなくなり、引きこもりではないけれど自分から進んで『どこに行きたい』とは言わなかった。(N高に入って)体調がよくなりました。自分で時間管理できたのが大きい」(母・恵子さん)。 自分の好きなように時間を使えるのはN高の魅力。この日、初めて机に向かったのは夕方の5時近くだった。高卒認定の必修科目は5分から10分ほどの授業動画を使って勉強。その後、テスト形式のリポートを提出。1日1、2時間の勉強で卒業に必要な単位が取れると言う。授業で見るのは普通の動画だけではない。VRゴーグルをつけて始まったのはAIを相手にした英会話の授業だ。 「画面の向こうにいるのは本当の人ではないから、間違えても問題ない。でもリアルにできるというのが良さです」(須藤さん) VRに興味を持ち、どんどん変わっていく息子に恵子さんは驚いていた。 「積極的になって人前で堂々と話をするようになり、自分から外に出かけるようになりました。ネットの高校だから出かける必要はないのに。N高ができてくれて感謝しかないです」