十人十色の武器を育てる~通信制高校、教育革命の全貌
N高の生徒たちが長崎・五島市にいた。地元の魚を使った魚醤は五島列島の名産品。幾つかを混ぜ合わせて新製品を作る職業体験の授業だ。 体験が一段落した所でお昼の時間に。五島列島産のそば粉で作った通称「ごSOBA」を食べていると、そこにN高等学校校長・奥平博一(65)が入ってきた。 職業体験は五島列島以外でも行ってきた。山形のマタギ、岐阜の刀鍛冶など担い手の減った仕事の現場へも行く。 「実際に現地に来て地元の人の課題など話を聞くことにすごく価値がある。それが何よりの勉強です。英数国理社、保健体育、家庭、美術以上に勉強です」(奥平)
難関大学を目指すネットコースの3年生、加藤環季さんは、今年度の必修科目を4月の一カ月で全て終わらせたという。現在は授業動画を見返しながら一日10時間、猛勉強を続けている。大学受験を目指す生徒にはライブの授業もある。講師がスタジオから生配信。生徒たちの回答をリアルタイムで添削する。コメントで質問できるので、分からないことはその場で解消できる。 「教室に集まっていないけれど、オンラインが教室みたいなイメージです」(加藤さん) 以前、全日制の高校に通っていた加藤さんは、自律神経の不調から通学が難しくなり、2年前、通信制に切り替えた。N高を勧めたのは母・ゆかりさん。転校に踏み切ったのは前の学校への不信感からだったと言う。 「学校に行きにくくなった時に『授業を受けなくていい、寝ていていいから席に座っていて』と言われました。そういう教育ってどうなんだろう、と思って」(ゆかりさん) 夕方4時、ひと息ついて始めたのは、オンラインでの志望校についての相談。相手はメンターと呼ばれるスタッフだ。N高には授業を行う講師のほかに、あらゆる相談に親身に乗ってくれるスタッフがいるのだ。 「毎日ダイレクトメッセージをしています。全日制の学校で、廊下ですれ違った時に『今日も元気?』と話すのと同じ感覚ですね」(加藤さん) 大学を目指す生徒にはハイレベルな教材、学習環境を提供するN高。ただし基本となるのは一人一人の「得意なことを伸ばす」という考え方だ。 「英語で90点取っている生徒が、数学が苦手で24点だと職員室に呼ばれる。『英語はいいけど数学はテストで頑張らないと赤点』と言われます。でも好きで得意な英語を伸ばすほうが、世の中に出た時には仕事に役立ちます」(奥平) 従来の高校とは違った教育を推し進めるN高。その方向性は支持され、最初は2000人に満たなかった生徒数が4年後には日本一に。その翌年にはN高と全く同じシステムを持つS高を開校。両校を合わせ、現在は2万6000人を抱える。