「家族連れ」が「撮影の邪魔」にならないように肩身の狭い思いをすることもなく…「足立区で行われた鉄道イベント」が大成功した「意外なワケ」
鉄道の仕事を学べる企画
このイベントでは、鉄道員とふれあえる企画も人気を集めた。運転士や車掌の仕事を学ぶ、車内アナウンスをする、オリジナル缶バッジをつくる、電車のパネルの前で写真を撮る。これらをJR東日本・東武・京成に所属する現役の鉄道員と一緒に体験できる企画が子どもたちに好評で、整理券なしで参加できるコーナーには長い行列ができた。 これらのコーナーでは、子どもやその親だけでなく、鉄道員も楽しんでいた。ふだん駅や列車では見られない鉄道員の笑顔がそこにはあった。鉄道員のなかには、若い社員だけでなく、制帽に赤や金の線が入った上級社員もいた。
なぜこのイベントが実現したのか
さて、なぜこのようなイベントが実現したのだろうか。ギャラクシティやNPOナナツホシのスタッフ、そして参加した鉄道会社の社員に聞いてみた。 ギャラクシティのスタッフによると、同施設での鉄道イベントは、NPOナナツホシの協力を得て7年前から始まったという。2022年には鉄道3社の協力を得てイベントの規模を拡大することで「あだち鉄道ミュージアムスペシャル」を開催。それからも新規企画を次々と盛り込んで規模を拡大し、今回に至ったそうだ。 つまり、足立区の施設と地元のNPOが始めた小さな企画が核となり、鉄道会社のバックアップを受けて規模を広げ、2日間で1.5万人以上を集めるイベントに成長したのだ。主催者が鉄道事業者(鉄道会社)ではなく、自治体の施設の運営者(ギャラクシティ指定管理者みらい創造堂)である点がたいへんユニークである。 このイベントは、鉄道会社の社員にも好影響を与えたようだ。参加した社員からは、「ここに来てよかった」「モチベーションが上がった」「よい刺激を受けた」といったポジティブな声が聞かれた。 いっぽう、国内で行われる鉄道イベントの多くは、鉄道事業者がふだん入れない車庫を一般公開するものである。それゆえ、会場の一部が「高価なカメラを持った人が集まる車両撮影会」になり、見学を楽しみにして来た家族連れが、撮影の邪魔にならないように肩身の狭い思いをすることがたまにある。 ただし、そもそも鉄道は「公共の足」であり、鉄道ファンだけのものではない。それが今後も発展するには、利用者と運営者の相互理解が必要であり、鉄道イベントはその場を設ける貴重な機会になり得る。 その点、「あだち鉄道ミュージアムスペシャル」は、来場者と鉄道員がともに楽しめる交流の場や、両者の相乗効果で鉄道への理解を深める場を提供した。これによって、鉄道イベントの新しい形が示されたと言えるのではないだろうか。
川辺 謙一(交通技術ライター)