印象派150周年記念、オルセー美術館で『パリ1874年』展。
その前、1871年に普仏戦争の敗北でナポレオン3世が失脚し、革命自治体(パリ・コミューン)が生まれ、1875年には第三共和制が成立し......。世の中が大きく変わろうとしている時だった。ナポレオン3世による第二帝政期に始まったオスマンのパリ大改造でもたらされた工事で、パリの街の近代化が進んでいた時代である。ブルジョワ階級の台頭で贅沢と快楽が求められるようになり、絵画を買う画商やコレクターたちの中にもモダニティを感じさせる印象派の作品に興味を示す人も出始めていた。絵画の世界にも革新が起きる時が来ていたようで、ナポレオン3世は1863年に官展から拒否された作品を集めて『落選展』を政府公認で開催している。落選続きの前衛画家たちの抗議にこたえ、その判断を一般人に委ねようという趣旨からだった。
オルセー美術館の展覧会はイントロダクションとして、オペラ座の工事を含めパリの当時の様子を紹介し、時代背景からスタート。印象派展は1874年から1886年までの間に8回開催されていて、オルセー美術館では10のセクションで1877年の3回目までを取り上げている。この3回目は商業的成果は期待外れだったものの、画家たちは自分たちが印象派であることをここで宣言。8回の開催中、この3回目の開催が最も"印象派"な展覧会だったそうだ。なおこの3回目のメセナは画家のギュスターヴ・カイユボットである。
ヴァーチャル・リアリティで1874年の第1回印象派展に潜入。
この展覧会の開始と同時に、オルセー美術館では、「今宵印象派たちと共に パリ1874年」という約45分の没入型 VR(ヴァーチャル・リアリティ)を体験できるようになった。こちらは展覧会より会期が長く8月11日までだ。印象派やその誕生の時代を簡単にわかりやすく、というのであれば、展覧会で絵を見て回る前にこちらを先に、あるいはこれだけを体験するのもいいだろう。VRヘッドセットを装着するだけで、1874年4月15日にタイムスリップ! 印象派の画家たちのモデルであるローズ(もちろん架空の人物!)が案内役となり、オペラ座(この時代は完成前)前広場から脇を馬車が走るキャプシーヌ大通りを歩き、のちに第1回印象派展と呼ばれることになる展覧会の会場となったナダールのスタジオへと導かれる。大通りにはカフェやブティックが並び、すれ違う女性はクリノリンドレスで男性はシルクハットにルダンゴト! 展覧会場では2フロアに展示された作品を鑑賞し、ルノワールやモネ、モリゾといった画家たちとすれ違うのだ。早足のローズを追いかけて体験者たちも歩みを進めることになる。VR会場は平地なのだが実によくできているVRなので、ローズの後をついて段差の床や階段などを歩くと、つい足を上げてしまったり。エレベーターの上下にしても、本当に乗っているかのように上昇も下降も体感してしまうのがとても不思議。この後、ナダールのスタジオを後にし、ローズとともに17区にあるフレデリック・バジールのアトリエへと向かう。エミール・ゾラ、ルノワール、マネ、モネが集うバジールの作品『バジールのアトリエ ラ・コンダミンヌ通り』(1870年)で知られた光景が目の前に広がる。そしてサン・ラザール駅から鉄道に乗って、ローズは画家たちがイーゼルを立てて絵を描くセーヌ河岸のラ・グルヌイエール、モネが『印象・日の出』を描くル・アーブルへと我々を連れて行き......。