『虎に翼』が示した正しいだけでないヒロイン像、「透明化されてきた」人たちへの視点
現代と地続きの問題を浮き彫りにしてくれた
続いては、ライターの田幸和歌子さん。放映開始まもなく、『『虎に翼』で新たな朝ドラ現象。「寅子は私」と語りはじめた女性たち』という記事を寄稿し、読者から多くの共感を呼んだ。その後もNHKの制作サイドの取材などを多角的に『虎に翼』に迫って頂いた。 【田幸和歌子さんが選ぶ、忘れられない、印象的だった場面】 (1)原爆裁判(第20週~23週) 世の中から忘れ去られ、貴重な「記録」も近年廃棄されてしまった原爆裁判の原文をNHKの朝ドラという老若男女が見る枠でごまかしなく、余計な演出もなく、そのまま読み上げた意義はあまりに、あまりに大きい。戦争を知る世代がどんどん少なくなる中、世界では戦争が今も続き、日本もそこに加担しつつある今、奇しくもノーベル平和賞を被団協が受賞した現実とのリンクも含め、時代が求めるドラマだったと思う。 (2)「第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別 社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」(第1話と第9週) 河原に座って新聞を読み、涙する主人公・寅子の姿と、尾野真千子の語りでゆっくりと読み上げられた日本国憲法第14条。さらにこの状況が第9週の第44話につながる。優三の戦病死後、母に渡されたお金で焼き鳥を買い、優三を思いながら頬張りつつ、焼き鳥の包み紙になっていた新聞に目を落とす寅子。そこには「日本国憲法」の文字があった。女性法曹としての翼をもがれ、心を失っていた寅子が、日本国憲法の交付・施行すら知らなかったこと。そこに書かれた憲法第14条に、優三がいたこと。「トラちゃんができるのは、トラちゃんの好きに生きることです。(中略)トラちゃんが後悔せず心から人生をやりきってくれること。それが僕の望みです」―― これで泣かないわけがない。 (3)寅子の「いくらよねさんが戦ってきて立派でも、戦わない女性たち、戦 えない女性たちを愚かなんて言葉でくくって終わらせちゃ駄目」(第14話) 努力してきた人、何かを成し遂げた人を貴ぶことの多い朝ドラ、もっと言えば世の中の風潮に対し、「戦わない人、戦えない人=寅子になれない人々」に光を当て、分断させない意義は大きい。 【田幸和歌子さんが感じた『虎に翼』の魅力】 朝ドラの長い歴史では、主人公が健気でドジ可愛い路線が多い一方、強く賢い戦うヒロインの物語には名作が多い。しかし、『虎に翼』が特異なのは後者の作品でありつつ、性別や努力する人・しない人などの二元論で分断しないこと。名もなき市井の人々、世の中で透明化されてきた人々を取りこぼさず、光を当ててきたこと。さらに現代と地続きの問題を取り上げ、私たちの無自覚の「差別」意識に問いを投げかけたこと。過去の人々の「はて?」が少しずつ獲得してきた「平等」の先に私たちが生き、今も実現できていない「はて?」のバトンを私たちが受け取り、少しでも良い形で次世代に渡していく必要性を考えさせられた「気づき」と「思考」のドラマだった。 引き続き、『改めて振り返る『虎に翼』名場面』(2)、(3)をお伝えする。
FRaU編集部