やっぱり矢沢永吉はビッグだった…「なんで下北沢じゃダメなんですか?」無礼な質問をした司会への「切り返し」
■「本気で聞きたいこと」でぶつかってみる リスクをおかしてでも相手に一歩踏み込む。そう言われても、怖いものは怖い。「この人は」と思えばこそ、なかなかその一歩を踏み込む勇気を持てなくても無理はない。 ここで僕からひとつ、付け加えておかなくてはいけないのは、一歩踏み込むといっても故意に相手を怒らせようとするのではなく、「本気で聞きたいこと」をぶつけてみてはどうか、という提案だ。 その点では、『週刊新潮』で元NHK政治部の岩田明子さんとの対談コラムに呼んでいただいたときのことが参考になる。 ■「どうして自民党政権寄りだったのか」聞いてみた 岩田さんは、NHK時代、本人はそれだけじゃないと怒るかも? だが、ずっと安倍晋三元総理の番記者をしており、フリーになってからは政治評論家、コメンテーターとして活躍している。一方の僕はというと、もともと安倍元総理には批判的だったので、岩田さんとは立場を異にしていた。 とはいえ、何事にもプラス面とマイナス面がある。安倍元総理については、僕もちょっと批判的になりすぎていたという反省があった。それに、岩田さんという人物のスタンスに興味を引かれていた。 そこでまず、岩田さんはどうして自民党政権寄りだったのかを聞いてみたいと考えた。番記者の中でもっとも安倍元総理に食い込み、ベッタリだったという世評の真偽を尋ねること。
■「自民党の裏金問題」を岩田さんにぶっ込む そしてもう1つ。自民党の派閥のパーティー券収入不記載問題については、外せない。 この問題が明るみになった頃に岩田さんが明かしたところによると、2022年の時点で、安倍元総理は不記載をやめようと指示を出して一旦そうなった。なのに、安倍元総理が亡くなったあとにまた不記載・裏金スキームが復活したという。なぜ、誰が元に戻した? これは政治まわりでは岩田さんが語ったすごいスクープなのだ。 しかしだ。安倍元総理が不記載をやめようと言っていたことを知っていたのなら、今になってからではなく、2022年当時に明らかにして追及すべきではなかったのか。ジャーナリストならば。やはり、この点を岩田さんに突っ込まずにはいられない。率直にぶつけてみることにした。 そんなことをいきなり聞くなんて、嫌な感じがするだろう。「ツッコミに来たのか」と不快に思われるかもしれない。それでも、一所懸命に調べ、準備し、あえてそれをやったのだ。 そんな僕の投げかけに、岩田さんは「それは、違うんですよ」と、至極真摯に答えてくれた。 ■一歩踏み込んだら、アクセントになって波が起きる さすがだ。具体的なやり取りが気になったら、ぜひ『週刊新潮』2024年3月21日号をご覧いただきたい。 ともかく僕は、彼女の話には論が通っており、それ以上ネチネチやりたくない。ここで「そんなことはないでしょ」と僕が言ってはいけない。相手を怒らせるための質問ではない。一歩踏み込んで、本当に聞きたいことを聞くための質問なのだ。だから、「そうなんですね。じゃあ、もう突っ込むのはやめます」と、いとも簡単に引いた。時に消化不良を覚悟で、犬だって鳴くのをやめることがあるのだ。 何より、政治家と違って、僕が本気で聞きたかったことに逃げずに、かわさずに、真っ直ぐに答えてくれた岩田さんの度量勝ちだ。「負けて勝つ」ための準備をしただけなのだ。 その後は、いろんな脇道にそれつつ、話は仏教などにも発展した。そこはコラム欄の紙幅の都合で入っていない。岩田さんとは政治的立場や考え方は多少異なるものの、互いに本音で語ることで、理解し合える点や共通点も見出せた充実の対談になったと思っている。 ちなみに、僕はこの対談に向けて、先に挙げた2点以外にも準備していた。でも、かなりの準備を捨てることになったのも事実。だが、それでいい。それがいいのである。 一歩深く踏み込み、本気で聞きたいことをちょっと聞けたら、それがアクセントになって波が起き、あとは楽しく話すという波乗りに入れる。しつこい追求のための準備を全部捨ててしまうのだ。 ---------- 古舘 伊知郎(ふるたち・いちろう) フリーアナウンサー 立教大学を卒業後、1977年、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。3年連続で「NHK紅白歌合戦」の司会を務めるなど、NHK+民放全局でレギュラー番組の看板を担った。テレビ朝日「報道ステーション」で12年間キャスターを務め、現在、再び自由なしゃべり手となる。2019年4月、立教大学経済学部客員教授に就任。 ----------
フリーアナウンサー 古舘 伊知郎