<人手不足で進む省人化>AI技術が発達しても「人が必要な」理由
慢性的な労働供給不足に直面する日本。省人化による転換は急務だが、「人が必要なくなる」ということではない。「Wedge」2024年7月号に掲載されている「あなたの日常が危ない 現場搾取社会を変えよう」記事の内容を一部、限定公開いたします。 岸田文雄首相は5月30日、中小企業などにおける「省人化」に向けた支援策を強化することを表明した。 【図表】77%の産業で労働者が不足している 人手不足が深刻化する中、「省人化」は急務である。人間の仕事の一部もやがて、AIやロボットに代替されていくことは間違いないだろう。そうした未来が確実視される中においても、「人間にしかできないこと」「人間がいなければできないこと」がある。それは一体、どのようなことなのか。エッセンシャルワーカーの職場を歩くと、見えてくるものがある。
ロボットには真似できない必要とされる専門職の経験知
「最終的に、私の祖母は施設に入りました。それを仕事として支えてくださるエッセンシャルワーカーの方を心から尊敬しています」 そう語るのは、SOMPOケアのFuture Care Lab in Japan(東京都品川区)で副所長を務める芳賀沙織さんだ。左半身を動かせない祖母の入浴を手伝っていた幼少期の経験が、彼女の原点になっている。 同所は、人間とテクノロジーとが共生する新しい介護のあり方をつくるために、SOMPOグループが開設した研究所だ。最前線の現場のニーズをくみ取り、現場で活用できるテクノロジーをもつ開発企業と連携する。 一例を挙げると、「バナナ」や「パンダ」などといった特定の音声から、高齢者の「ものを飲み込む力」を測定する技術などがある。こうしたアイデアは、介護現場の専門職から発案されたものだ。経験知の応用によって最新技術に昇華された事例だろう。 学生時代、介護施設に勤めていたという芳賀さん。当時、認知症のフロアを担当していると、何度も「帰りたい」と言う高齢者の方がいたという。
「知識や経験に乏しい自分が対応をしてもご本人の心は休まりませんでしたが、ベテランの専門職の方が話し相手になると、次第に落ち着きを取り戻していったのです。ひとときの話し相手になることは私にもロボットにもできますが、それだけでは何かが足りない。経験を積んできた専門職の方だからこそできることがある。介護には、目には見えない力、安心感があることを実感しました。 もちろん、テクノロジーは重要です。しかし、それはあくまでも人間の生活や仕事を『支えるもの』の一部。人間が生活や仕事をしやすい環境をつくる補助的なものであると言えるでしょう。こうした考えのもと、これからも介護現場を支えるテクノロジーの創出に努めていきたいと思っています」