アントニオ猪木はジャイアント馬場に勝てるか
猪木のフットワークか、馬場のふところの深さか
70年代のプロレス専門誌の話題の中心は「馬場・猪木」であり、「どちらが強いか」であった。前述の79年のオールスター戦はBI砲復活という夢を与えてくれたが、この時期が馬場×猪木戦実現にもっとも近かったタイミングだったと思われる。 もしその翌年あたりに馬場×猪木戦が実現していたら……。このとき、実際に実現の一歩手前まで話が進んでいた、といった裏話的な情報は近年いくつか出てきたが、当時はまだ総合格闘技もなくプロレスのファンタジーが生きていた時代。ここではあくまでリングの中でのこととして馬場×猪木戦を考えてみたい。 オールスター戦の頃、猪木はすでに延髄斬りをフィニッシュに多用していた。日プロ時代にコブラツイストや卍固めといった必殺技を目の当たりにしてきた馬場も、延髄斬りは未知の技だったはずだ。しかし2メートル9センチとされる馬場の身長を考えたとき、猪木の延髄斬りは届かないか、たとえ届いたとしても威力は半減するだろう。ほかにコブラツイスト、卍固めも馬場の巨体にはかかりにくい。インディアン・デスロックからの鎌固めや弓矢固めも厳しい。スープレックスやアームブリーカーも難しそうだ。そう考えると、当時のプロレスにおいて体の大きさはきわめて重要であることがあらためてわかる。消去法的に猪木の有効な戦法として残るのはズバリ、馬場の足を狙ったアリキックだ。馬場のふところに入り込んでアリキックを打つのも至難の業だが、それこそモハメド・アリのように“蝶のように舞い蜂のように刺す”、特筆に値するフットワークを駆使してダメージを蓄積させることができれば、馬場も巨体をくの字にせざるを得ない。頭の位置が十分下がればナックルも打てるし、延髄もヒットする。これはいけそうだ。 一方、馬場は長い手足を最大限有効に使って猪木をふところに入り込ませないことがポイントとなる。猪木はスピードを活かしてロープに飛んで馬場を撹乱したり、アリ戦のようにスライディングしてのアリキックをねらってくるかもしれないが、そうした猪木の一挙手一投足を見切ってのカウンターの16文キックや水平チョップ、脳天唐竹割りなどが馬場の必勝パターンとして考えられる。また、馬場は猪木とはキメ方が異なるが長身を利したコブラツイストも得意であり、猪木にコブラを仕掛けることができれば会場は割れんばかりの大歓声に包まれ盛り上がるはずだ。 攻める猪木に守る馬場。2人の攻防の図式は、リング内でもリング外の興行戦争のような構図になりそうだ。猪木に攻めるだけ攻めさせて、一撃で逆転を狙う馬場。猪木の積極果敢な攻撃を馬場がどれだけいなせるか、耐えられるかが勝敗の大きな分かれ目となるだろう。 あなたが猪木なら、馬場なら、どうやって攻略するだろうか。 (文:志和浩司)