パンデミックは必ずまた起こる――尾身茂が振り返る日本のコロナ対策、成功と失敗
WHO時代から、重圧には比較的慣れていたと語る。 「野球選手が来たボールを打つように、与えられた仕事をやるのは当然だという思いでした。コロナ対策にただ一つの正解はありません。なるべく合理的で人々に納得してもらえる提案をすることが専門家の仕事。衝突することを恐れず、それぞれの思いをしっかり言う責任がある。けんかになるぐらいとことんやったけれど、専門家会議は3年半、誰一人としてやめることはありませんでした」 現在、尾身は結核予防会の理事長を継続し、世界の感染症に向き合う日々だ。 「感染症のパンデミックは必ずまた起きます。感染症の歴史をひもといてもそうですし、人々がこれだけ交流して、たくさんの家畜を飼育している。地球温暖化なども考慮すれば、パンデミックが減ることはないでしょう。政府、自治体だけではなく、みんながこれからも起こるという認識を持って、平時から心の準備をしておくことが大事だと思いますね」
尾身茂(おみ・しげる) 1949年、東京都生まれ。90年からWHOに勤務。99年、WHO西太平洋地域事務局長に就任。2009年に帰国。同年、政府の新型インフルエンザ対策本部専門家諮問委員会委員長。20年2月、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード構成員、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長。20年7月~23年8月、新型コロナウイルス感染症対策分科会会長。公益財団法人結核予防会理事長。著書に『1100日間の葛藤 新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録』などがある。 (取材・文:塚原沙耶) 【RED Chair】 ひとりの人生を紐解く『RED Chair』。先駆者、挑戦者、変革者など、新しい価値を創造してきた人たちの生き方に迫ります。