パンデミックは必ずまた起こる――尾身茂が振り返る日本のコロナ対策、成功と失敗
新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行して、1年以上が経つ。コロナ禍で専門家組織をまとめ、政府に提言した尾身茂(75)は今、コロナ対策に関する政府の検証は不十分だと指摘する。日本の対策は、何が成功で何が失敗だったのか。無観客開催となった東京五輪やワクチンについてどう振り返るのか。専門家としての葛藤と責任を語る。(文中敬称略/撮影:近藤俊哉/Yahoo!ニュース オリジナル RED Chair編集部)
日本の死亡率が欧米より低かった背景は?
「ウイルスがこれだけ劇的な変化をすることは、『神のみぞ知る』で、われわれ専門家も想像していませんでした。私は長い間、国内外で感染症対策に従事してきましたが、最もしたたかな感染症であることは間違いないと思います」 2020年初頭から世界を翻弄した新型コロナ・パンデミック。尾身茂は約3年半にわたり、専門家として危機に向き合った。 「政府の検証は不十分だと思います。すべての人が大変な思いをした、100年に一度の危機ですよ。誰かを非難するためではなく、次のパンデミックに備えるため、政治家、官僚、専門家、地方自治体、マスコミといったあらゆる関係者が、公開されているデータ、資料等をもとに検証する必要があります」
コロナ禍で専門家組織が出した提言の数は100を超える。尾身はしばしば首相と並んで記者会見に出席し、時に首相とは異なる意見を伝えた。重大な役割を担い、批判の矢面にも立った尾身は、コロナ対策をどう振り返るのだろうか。 「日本の人口当たりの死亡者数は欧米諸国に比べて低い。日本の反省すべき点は準備不足だったこと。よかった点は、それを一般市民等が補ったことだと思います」 欧米諸国に比べて死亡率の低かった要因を、こう説明する。 「国民が罰則や罰金がないにもかかわらず、国や自治体による行動変容のお願い、緊急事態宣言などに自主的に協力してくれました。それから、医療関係者、保健所の人たちのがんばり。三つ目の要因が『ハンマー&ダンス』と呼ばれる施策です」 日本は、医療の逼迫(ひっぱく)が起きそうになると緊急事態宣言のような強い対策、つまりハンマーを打ち、医療逼迫が軽減されると強い対策を解除する、いわゆる「ハンマー&ダンス」を繰り返した。例えばロックダウンで封じ込めた中国と、経済を優先して行動抑制を課さなかったスウェーデンの中間といえる。