現代人は「家畜化症候群」!?…人類が「協調」することで体得してきた進化の”軌跡”とその”弊害”とは
人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等、不適切な発言への社会的制裁…。 世界ではいま、モラルに関する論争が過熱している。「遠い国のかわいそうな人たち」には限りなく優しいのに、ちょっと目立つ身近な他者は徹底的に叩き、モラルに反する著名人を厳しく罰する私たち。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句 この分断が進む世界で、私たちはどのように「正しさ」と向き合うべきか? オランダ・ユトレヒト大学准教授であるハンノ・ザウアーが、歴史、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えながら「善と悪」の本質をあぶりだす話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』(長谷川圭訳)が、日本でも刊行される。同書より、内容を一部抜粋・再編集してお届けする。 『MORAL 善悪と道徳の人類史』 連載第32回 『「死刑」は人類史において“重要なステップ”だった…人類の「協力」を育んできた「死刑」が今”過小評価”されている理由』より続く
人類の「自己家畜化」の源泉
遺伝子調査の結果から、人類の系統は今からおよそ75万年から25万年前のあいだに、のちにネアンデルタール人につながる系統から分離したことがわかる。 現代人に特徴的な「家畜化症候群」は、ホモ・ネアンデルターレンシスにはほとんど見られなかった。つまり、現生人類は平和で、温厚で、自制的で、協調的になった。このことから、人類の懲罰的なメカニズムがこの時期に影響力を強め、ホモ・サピエンスに自己家畜化の現象を引き起こしたと考えられる。
現生人類の出現
ロビン・ダンバーはホモ・ハイデルベルゲンシスを最初の古代人類と分類し、その進化が起きたのは50万年前だと考えた。懲罰の力で人類を社会的集団に変えたこの発展の終わりに、解剖学的にも、行動学的にも、現生人類と呼べる人間が、私たちが何のためらいもなく祖先と呼べる人類が、誕生した。その最初期には、一連の古代ヒト亜科が発生し、さまざまな時期にさまざまな場所で生活していたようだ。 ホモ・アンテセッサーは基本的にヨーロッパに、ホモ・エルガステルはアフリカに、ホモ・エレクトスの大半はアジアにいたとされる。ネアンデルタール人と人類にとって最後の共通の祖先となるホモ・ハイデルベルゲンシスが、そうした先代の種をじょじょに駆逐し、最終的には(仕組みはまだ完全には解明されていないが)現生の人類へと進化していった。 協調しながら危険な猛獣を退け、ともに狩りに出て、厳しい環境で生きる過酷さから互いを守る方法を学べば学ぶほど、生き残りが容易になった。協調性と生存能力が高まるにつれて人口も増えつづけたため、ますます大きくなりつつある集団で生きる方法を学ばなければならなくなった。人口密度が高くなると、有利な点だけでなく、危険も増える。仲間が増えると協力による利点も増えるが、その一方で、関係をうまく調整しなければ、衝突も増えてしまう。摩擦が増えるため、社会的な団結の崩壊を防ぐために、今まで以上の自制心だけでなく、闘争を避ける心も必要になる。そこで人類は、懲罰の仕組み―暴力的な罰と「ソフト」な制裁の組み合わせ―を発展させることで、自らの種を飼いならすことにしたのだ。
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