「海を愛する医者はいませんか?」奇策か挑戦か、誘致の背景にある「全国ナンバーワン」の県の危機感 出勤前にサーフィンOK、「小さい病院でも学ぶことはたくさんある」
岡山県の病院に勤める医師の吉永孝優さん(30)は午前2時に同県倉敷市の自宅を出て、車を走らせる。向かう先は100キロ以上離れた徳島県海陽町の宍喰ビーチだ。午前5時に到着すると、サーフィンを約3時間楽しむ。そして午前9時、海陽町の町立海南病院で診察を始める。 【写真】中国で「顔の偏差値」競争過熱 就活有利、美容診療者が急増
出勤前にサーフィンができるこんな環境とライフスタイルを、徳島県がアピールしている。目的は「医師を誘致するため」。背景には、徳島県の医師の平均年齢が全国で最も高いことや、都市部に偏在することで地域医療の担い手が不足している状況がある。仕事以外の時間の過ごし方を前面に打ち出す“奇策”は果たして功を奏するのか、注目を集めている。(共同通信=別宮裕智) ▽波乗り医師 吉永さんは、岡山県笠岡市の「笠岡第一病院」に勤めている。2024年4月から週1度、徳島県海陽町の海南病院で非常勤として働くことになった。きっかけはサーフィンだ。 吉永さんのサーフィン好きを知る研修医時代の指導医である國永直樹さん(45)から「海南病院ではサーフィンができるよ」と誘いを受けた。 吉永さんは語る。 「医師としての仕事のほかに、趣味や家族との時間も大事にしたいという思いがあった」 國永さんは吉永さんの様子をこう話す。「周りからは週に1回、徳島に来てしんどいんじゃないかと言われるが、むしろパワーをもらって生き生きと働いている」
吉永さんは基本的に毎週月曜日、海南病院で診察を行い、出勤前や、出勤日の前日に海に入る。 徳島大医学部出身で、いずれは徳島県への移住を考えている。「小さい病院でも学ぶことはたくさんある。若い世代の医師には半年間でも研修などで徳島に来て、魅力を知ってもらいたい」 徳島県病院局の福壽由法局長は「吉永さんのような方が週末に来てくれるだけでも全然状況は変わる」と感謝する。 吉永さんのような人材を念頭に、海南病院と同県阿南市の「阿南医療センター」は2024年3月、サーフィン専門雑誌「Blue.」に求人広告を出した。 「海を愛する医療従事者の皆様 その力を必要としています」 ▽医師数首位でも不足 徳島県は「人口10万人当たりの医師数」が2022年末で全国1位だ。2016年末から最新の結果である2022年末まで首位を守る。だが医師の平均年齢は54・2歳と、こちらも全国で最も高い。県によると、徳島市に全体の52・22%が集中する。一方、海南病院が立地する海陽町はわずか0・38%にとどまる。
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