出場OK?責任はどこに?飲酒問題を起こした山辺高とその部員の全国高校サッカー選手権出場を巡って是非論過熱
学校のすぐ近くにあった、廃校となった小学校をリノベーションした寮を生活拠点として、夕食後には語学を学習する時間も設定。トレーニング、食事、同校で学ぶ時間も含めた学業を全面的にサポートし、理念として「サッカーを通じて社会に貢献できる人間力を形成する」と謳ってきた。 サッカー部および寮はボスコヴィラサッカーアカデミーが管理運営し、寮内で発生した事案は寮内で解決する旨の合意書が学校側との間で交わされていたとされる。こうした状況もあって聴き取り調査が今月にずれ込んだ理由を、吉岡校長は11日の記者会見でこう説明していた。 「寮のなか、いわゆる家庭のなかで起こっていることについては、踏み込めないような認識をもっていました。今回の事案は私の認識の甘さによるものだったと思っています」 1922年に定められた未成年者飲酒禁止法によって、日本では20歳未満の飲酒行為が禁じられ、さらに周囲の大人には防止義務や罰金も定められている。大人とは酒類販売店の責任者であり、言うまでもなく保護者となる。ただ、寮で生活している山辺高サッカー部員の場合は誰になるのか。 学校長にとってアンタッチャブルな存在であるならば、管理運営するボスコヴィラサッカーアカデミーは上手く機能していたのか。同校サッカー部をめぐっては今年6月、パワハラを受けて退部を余儀なくされたとして、元部員2人が計1100万円の損害賠償を求める訴えを奈良地裁に起こしている。 訴えられたのは天平フーズと、サッカー部の監督を務めていた興津大三氏。元Jリーガーで、清水エスパルスのスタッフとして元日本代表FW岡崎慎司(現ウエスカ)などもスカウトした興津氏から、暴言や親への罵詈雑言を浴びせられ続けた末に心身が疲弊したと訴状には綴られている。
興津氏は7月に吉岡校長から退任を要請され、全国選手権初出場は山辺高の顧問教諭のもとで勝ち取った。ただ、パワハラ問題は依然として解決していない。県大会こそ制したものの、公立校とアカデミーがタッグを組んだ異彩を放つ試みは、教育の観点で見れば上手く機能しているとは言い難い。 連帯責任という言葉のもと、全国選手権への出場を辞退するべきだと声高に言うつもりはない。実際に大会要項内の「その他」には<参加資格に違反し、そのほか不都合な行為のあったときは、そのチームの出場を停止する>と定められているが、何が不都合な行為にあたるのかは明記されていない。 しかし、法律で禁じられている未成年の飲酒行為を犯したと認めた以上は、少なくとも2年生部員10人には等しく謹慎処分を科し、全国選手権への出場も辞退させるべきではなかったのか。法律を破ればどうなるのかを、全国で戦えない無念の思いを介してわからせることが教育ではないのだろうか。 しかし、吉岡校長が取った一連の対応を見る限りは、ボスコヴィラサッカーアカデミーとの関係をもち出した上で、学校側の責任を回避しようとしていた跡が残念ながら伝わってくる。吉田教育長は「飲酒した部員よりも、見つけられなかった側の責任」と説明したが、ならば責任の所在が誰にあるのかを、具体的な名前をあげた上で明確にするべきではなかったのか。 問題はまだある。山辺高サッカー部の2年生は11人のため、県大会の試合結果などと照らし合わせれば、誰が飲酒をしたのかが特定されやすい。全国選手権へ臨むからには学校やサッカー部全体が、さらには当該生徒が心ない誹謗中傷の標的にされかねない。関係各所と連携を取った上で、子どもたちを全面的に守っていく体制を整える責任が、吉岡校長をはじめとする周囲の大人に求められる。 2017年の秋には全国高校サッカー選手権で優勝した実績をもつ宮崎県の強豪、鵬翔高の複数の部員が宮崎市内の居酒屋で飲酒および喫煙していたことが発覚。全国選手権出場へ向けて勝ち進んでいた、県大会の準決勝が行われる前日の11月2日になって急きょ出場を辞退したケースがある。 鵬翔側は「高校野球と違って申告義務がない」として、当初は県サッカー協会および県高体連に報告せず、県大会にも引き続き出場させる方針を示していた。飲酒および喫煙していた事案そのものは前年夏のことだったが、県大会を勝ち進んでいたメンバーのなかには居酒屋にいた部員も含まれていて、世論の反発も大きかったことから判断をあらためている。 山辺高は31日にゼットエーオリプリスタジアムで行われる1回戦で関東第一高と対戦する予定になっている。(文責・藤江直人/スポーツライター)