佐野史郎「再発してもおかしくない」血液がん闘病生活と現在の姿
佐野史郎「再発してもおかしくない」血液がん闘病生活と現在の姿
多発性骨髄腫という病名を聞いたことはありますか? 多発性骨髄腫は血液のがんです。血液のがんといえば、白血病のほうがイメージはつきやすいかもしれません。血液のがんは、胃がんや大腸がんなどの臓器のがんに比べると病態や治療について理解するのはなかなか難しいと思います。そこで今回は、実際に多発性骨髄腫を発症し現在も維持療法中である俳優の佐野史郎さんと日本血液学会専門医である渡邉健先生に、多発性骨髄腫とその治療について対談していただきます。 【動画】佐野史郎の告白「正直どこまで生きれるか…」
「まさか血液がんになるとは」発覚当時を振り返る
渡邉先生: 現在の体調はいかがですか? 佐野さん: 抗がん剤治療と造血幹細胞を自家移植して3年が経ち、今は血液検査上の数値も問題なく寛解状態が続いていると主治医から伺っています。自分の体感としても全く以前と変わらない状態ですね。 渡邉先生: 移植後の維持療法はおこなっていますか? 佐野さん: はい。薬が体に合わず副作用との格闘に2年くらいかかりました。 渡邉先生: 大変でしたね。維持療法では薬の種類や量の調整に試行錯誤しながらも、今は副作用もなく生活できているのですね。 佐野さん: そうですね。 渡邉先生: もともと病気を発症される前、がんにはどのようなイメージを持っていましたか? 佐野さん: 実家が医者の家系で、子どもの頃から病気や死が日常でした。父もがんで亡くなり親族や家族でがんになった人もいるので、歳を取るとがんになる可能性もあると思っていました。 渡邉先生: 病気が発覚したのはいつ頃でしたか? 佐野さん: 2021年の4月です。 渡邉先生: 発覚のきっかけについても教えてください。 佐野さん: 当時はコロナ禍で毎日検温していて、ある夜、急に39度まで熱が上がり、翌日クリニックで血液検査したことがきっかけです。コロナへの感染はありませんでしたが、そのときに白血球数の異常と腎機能の低下が見つかりました。 渡邉先生: 腎機能にも異常があったのですね。 佐野さん: はい。それで大きな病院を紹介されて検査したところ、血液内科の医師から多発性骨髄腫だと診断されました。 渡邉先生: 最初から血液内科を紹介されたのですね。多発性骨髄腫について知っていましたか? 佐野さん: 多発性骨髄腫が題材となっている「白い影」というドラマは渡辺淳一さんの原作を読むくらい大好きで、病気については以前から知っていたので冷静に受け止められたと思います。病気を宣告されたときはドラマのワンシーンのようでしたが、全然ドラマチックじゃなかったですね。 渡邉先生: がんになる予兆などは感じていましたか? 佐野さん: がんを宣告される1年くらい前から腰痛は感じていました。がんで亡くなった先輩たちも腰痛があると言っていたことが頭によぎって、多発性骨髄腫だとは思いませんでしたが、がんの可能性もあるのかなと思っていました。 渡邉先生: そのほかに何か予兆はありましたか? 佐野さん: ちょっと痩せてきたことと、少し動いただけで息切れがすることは気になっていました。一番覚えているのは、とにかく何回もダッシュするシーンのときに背中の筋肉が後ろから掴まれて引っ張られるような感覚がしたことです。 渡邉先生: 多発性骨髄腫の症状は高カルシウム(calcium)血症と腎臓(renal)の障害、貧血(anemia)、骨(bone)の病変、4つの症状から頭文字を取ってクラブ(CRAB)と呼ばれています。骨の病変が出現する確率は7割強で最も多いのですが、佐野さんは骨折などを起こさずに済んだのが幸いですね。 佐野さん: 発覚の1年ほど前に仕事中の事故で腰椎骨折をしましたが、MRIで検査しても正常に回復していたので因果関係は不明とのことでした。それらの症状があっても多発性骨髄腫だとは疑いませんよね?1 渡邉先生: そうですね。多発性骨髄腫と告知されたときの心境について教えてください。 佐野さん: 66歳で多発性骨髄腫と告知されたときは、まさか血液がんになるとは考えてもいなかったので、少しびっくりしました。ただ、入院生活も撮影現場のように感じて、主治医の先生や病院のスタッフも撮影スタッフと同じように思えたので自分はこの作品に出演してよい作品を作ろうという考え方になり、宣告されてもむしろ前向きで、落ち込むことはなかったですね。 渡邉先生: 珍しいですね。がん告知されると半分の人はうつ病か適応障害になることも多いようです。 佐野さん: 病院の生活は現場と一緒で毎日やることが多く忙しいですよね。やるべきことが次々と出てくるので非常に充実していました。敗血症を乗り越えて退院したときは楽しかったと思えるくらい充実した日々だと感じたことを覚えています。 渡邉先生: 入院生活も充実して過ごせたのですね。 佐野さん: 胃がんなど、ほかの臓器のがんは、がんのできる場所や進行度などイメージがつきやすいと思うのですが、血液のがんは一般的にどういうものだと考えたらいいのでしょうか? 渡邉先生: 血液のがんは臓器の一部にできて周囲に広がっていくものではなく、からだ全体にめぐっている血液細胞が腫瘍になるものです。例えば白血病は骨髄の中で急激に悪い細胞が増える一方でよい血液が作れなくなるため出血や貧血、感染症にかかりやすくなる症状が出ます。ステージというものは病気の治りやすさを表す分類で、その後の治療の計画や見通しを立てるのに使われます。 佐野さん: なんとなくイメージはつきますね。 渡邉先生: 血液のがんは、ほかにも悪性リンパ腫があります。 佐野さん: リンパに腫瘍ができるのですか? 渡邉先生: そうですね。リンパ節にできる場合とそれ以外にできる場合が半分ぐらいです。 佐野さん: 半分はリンパ節にできて、残りの半分はどうなるのですか? 渡邉先生: 胃や皮膚、脳、精巣などあらゆるところに出る可能性があります。 佐野さん: なぜリンパ腫なのですか? 渡邉先生: リンパ球という白血球の一つが腫瘍になってしまうからです。 佐野さん: 白血球の一つの種類なのですね。 渡邉先生: そうですね。若い白血球が腫瘍になるのが白血病。それが成熟したリンパ球の腫瘍は悪性リンパ腫。もっと成熟し抗体を作る形質細胞が腫瘍化するのは多発性骨髄腫です。どこの段階でがんになるかで病名や性質は変わります。 佐野さん: 一番歳を取っている人のかかる血液がんが多発性骨髄腫ということですか? 渡邉先生: そうですね。より成熟した白血球の腫瘍が高齢の方に出るのは興味深いところです。それに対して多発性骨髄腫は40歳くらいから少しずつ増え100歳以上で最多になる腫瘍なので、加齢が一番の原因だと考えられています。