「カタール断交」長期化も 中東で新たな戦火が広がる?
イスラム世界で全面的な支持はない
さらに、イスラム世界の主流において、カタール断交は必ずしも全面的に支持されているわけでもありません。サウジに同調してカタールと断交している国に、イエメンやリビアなどのいわば「破綻国家」や、モーリタニアやモーリシャスなどイスラム圏における「周辺地」が多いことは、イスラム世界における「カタール包囲網」が不完全なことを意味します。実際、サウジなどの経済封鎖にもかかわらず、オマーンやモロッコなど中立的なイスラム諸国から、カタールに水や食料などが輸入されています。これはカタールの「抵抗」を可能にしているといえるでしょう。 最後に、サウジが敵視するイランは、カタール危機に関して「関係国の対話が重要」という姿勢を崩していません。イランがあからさまに支援すれば、かえってカタールにとってマイナスに作用するとみられるため、これは不思議ではありません。また、イランに近いロシアも、サウジに対して対話をよびかけています。 その一方で、最強硬派サウジの影響力がスンニ派のなかで小さくなることは、イランだけでなく、その後ろ盾であるロシアにとっても望ましい結果です。そのため、イランもやはりカタール危機の行方を注視しているといえますが、そのために軍事行動などを起こす用意があるとはみえません。
サウジを支持して仲介名乗り出る米国
カタール危機の収束は、仲裁に左右されるとみられます。カタール危機発生からまもなく、仲裁を申し出る国が現れており、それらはいずれもカタールがスンニ派のなかで孤立することをスンニ派全体にとって不利益とみなす一方で、それぞれの利益と立場に基づいて仲裁に名乗りをあげています。 例えば、米国トランプ大統領は、危機発生直後にサウジ、カタール両首脳に電話し、「湾岸諸国の結束」の重要性を強調しています。 トランプ政権にとって、両国を含むスンニ派諸国は、経済面だけでなく、安全保障上も重要なパートナー候補。トランプ大統領は5月に初めての外遊でサウジアラビアを訪問した際、対テロ戦争やイラン封じ込めを念頭に、スンニ派諸国との軍事同盟「中東版NATO(北大西洋条約機構)」の構想を発表。その直後だけに、スンニ派諸国の間の亀裂は避けたいところです。 ただし、その一方で、トランプ大統領は「カタールがムスリム同胞団やハマスなどの『過激派』を支援し、イランと関係を維持している」というサウジの主張を支持。トランプ政権は対テロ戦争の重視やイラン敵視が明確です。 立場上、一方の当事者に肩入れしているため、米国の仲介が奏功するかは疑問です。