「カタール断交」長期化も 中東で新たな戦火が広がる?
カタールを支持して仲介名乗り出るトルコ
次に、トルコです。トルコのエルドアン大統領も、危機発生の直後から、サウジ、カタール両政府に仲介を申し出ています。トルコはカタールとともにムスリム同胞団を支援。さらに、イランともシリア内戦でともに和平交渉をリードしようとしており、同国との関係でもカタールと近い方針にあります。 もともとトルコはスンニ派の大国として、サウジとライバル関係にあります。実際、サウジはシリア内戦で反アサドのスンニ派勢力を支援していますが、トルコはこれと距離を置いています。今回の仲介は、「仲間」であるカタールの支援だけでなく、イスラム圏における影響力の拡大を目的にしているといえます。 しかしトルコの申し出を、サウジ政府は事実上無視。そのため、トルコの対応は硬化し、6月7日には早くもカタール領内のトルコ軍基地に兵員を増派すると発表しました。 ただし、スンニ派同士の軍事衝突は、コーランにある「ムスリムは争ってはいけない」という教えに抵触しやすく、宗教的なハードルが高いものです。イスラム世界でもこれまで、主に国境問題をめぐって対立は多くありましたが、現在の国境線が確定して以来、スンニ派諸国同士の軍事衝突は、1963年のアルジェリア・モロッコの国境紛争や、1986年のバーレーン・カタールのファシュト・ドベイル島をめぐる軍事衝突など、必ずしも多くありません。各国にとって死活的な利害に直結する領土問題でもなく、宗教的なハードルが高いことからも、軍の展開は他に手段の乏しいトルコにとって、サウジなどへ圧力を加える手段にとどまり、軍事行動に出る可能性は低いとみられます。 とはいえ、米国とは逆に、カタールに肩入れしすぎているため、やはりトルコの仲介が奏功するかは疑問です。
中立国連合の仲介は成功するのか?
最後に、クウェートです。ペルシャ湾岸のスンニ派の君主制6か国は、湾岸協力理事会(GCC)と呼ばれる地域機構を構成しており、サウジアラビアやカタールとともに、クウェートもメンバーです。今回、GCCメンバーのうち、アラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンはサウジとともにカタールと断交しましたが、クウェートはオマーンとともに中立を保っています。 クウェートの国家元首サバーハ首長は、87歳と高齢でありながら、危機発生直後から自らサウジやカタール、UAEなどを相次いで訪問。仲介に向けた働きかけを続けています。ペルシャ湾岸諸国の君主の間でも長老格にあたるサバーハ首長の働きかけは、オマーンやモロッコなど中立的なスンニ派諸国からも支持されており、カタール危機における焦点になるとみられます。 小国クウェートは、かつて湾岸戦争(1991年)でサダム・フセイン率いるイラクに占領された経験もあり、周辺国との関係に敏感です。そのクウェートにとって、サウジアラビアがGCC諸国へ影響力を強めることは、カタールと同様に警戒すべきことである一方、GCCの結束は、中道的な外交方針が目立ち、一国で国際的発言力を保つことが難しいクウェートにとって、国際的立場を確保する上で重要です。そこには、この機に乗じて、イランやトルコだけでなく米国がスンニ派諸国への影響力を増すことへの警戒もあるといえます。