「カタール断交」長期化も 中東で新たな戦火が広がる?
中東一帯の対立の“導火線”
とはいえ、いくら長老格のサバーハ首長が働きかけるにせよ、サウジ政府とカタール政府が折り合える点をすぐに見つけ出すことは、かなり困難です。 今回と同様、これまでイスラム世界で「『共通の敵』との関係」という外交方針を理由に、多くの国から外交関係を断絶されたケースとしては、長引く中東戦争に疲れ、1979年にイスラエルと単独で和平条約を結んだ後のエジプトが挙げられます。 同年、エジプトはほとんどのイスラム諸国から国交を断絶され、アラブ諸国が加盟するアラブ連盟からも追放されました。エジプトがアラブ、イスラム世界に復帰したのは1989年のことで、この背景にはエジプトだけでなく、周辺のアフリカ系イスラム諸国や米国からの働きかけもありました。さらに、やはり1989年の冷戦終結により、世界全体で対立が緩和していた時代背景も、これに有利に作用したといえます。 エジプトの場合のようにカタールの孤立が長期化すれば、イランやロシアを除く各国にとって最悪の結果である「スンニ派の分裂」が常態化しかねないといえます。それは、すでに宗派間の「代理戦争」となっているシリア内戦やイエメン内戦などにおけるサウジとイランの対立を、さらに加熱する可能性が大きいといえるでしょう。 これに加えて、サウジなどによるカタール断交は、国際テロ組織を刺激する側面も無視できません。特にパレスチナでイスラエルと戦火を交えてきたハマスが、サウジなどからも「過激派」と名指しされたことは、イスラエルから歓迎されるという「ねじれ」を生んでいます。イスラエルには、ハマスがイスラム世界で「過激派」と位置付けられ、資金源を断たれることで、パレスチナでの軍事活動も縮小せざるを得なくなることへの期待があります。しかし、イスラム過激派にとって「パレスチナ解放」はこれ以上ない大義であるだけに、イスラエルと戦い続けるハマスがスンニ派諸国から「日干し」にされることは、中東諸国におけるアルカイダなど国際テロ組織の活動を活発化させかねない要因といえます。 こうしてみたとき、カタール危機は、関係国同士の軍事衝突の可能性こそ低いものの、それに起因する対立を加熱させる公算が大きいといえるでしょう。
----------------------------------- ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬社)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo! ニュース個人オーサー。個人ウェブサイト