「フランス大統領があなたに」…生放送で反戦を訴えた女性にプーチンを崇拝するロシア当局の尋問官が突然態度を豹変させたワケ
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ 。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第5回 『ロシア政府系メディアの生放送に「あなたはだまされている」と乱入した女性がロシア保安当局に受けた「尋問」…その衝撃の内容とは』より続く
思いがけない言葉
壁の時計に目をやった。午前10時だった。一日の仕事が始まっている。ドアの向こうに男の声が聞こえた。部屋の入口に若い男が立っていた。ニッコリと笑いながらテーブルの上に2つのコーヒーカップとブリヌイ(ロシアのクレープ)を置いた。一瞬の迷いもなく食べ物に飛びついた。それほどお腹が空いていた。ひどく神経が苛立っていたし疲れていた。 捜査官はコーヒーを一口すすると、男にわたしを見張っているように言い残してどこかへ消えた。この合間にわたしはコーヒーを飲み、前に座っている男の顔をじっと眺めた。 「そうだ、ゼレンスキーがあなたに感謝の意を表していましたよ」 携帯から目を離して男が突然言った。それから気まずそうにすぐ口をつぐんだ。いらぬことを言ったと思ったのだ。 「それは素晴らしい。ゼレンスキーに感謝しなくちゃ」 わたしは元気を出した。 「ゼレンスキーは英雄ね。包囲されたキエフから逃げ出さなかったし、リヴォフ(ウクライナ語ではリヴィウ)に避難しろと言われても国民と共に残ったし。ヨー ロッパで犯罪的な戦争を始めておいて地下壕に隠れるプーチンとは大違い」 この時、過激派対策センターの捜査官が戻ってきた。何か新しい指示を受けたようだ。これまでの「友好的会話」の雰囲気が突然変わった。