介護、看取りの不安が減る。親が安全に最期まで暮らすための「実家片づけ」のポイント【専門家に聞く】
親が急に具合が悪くなり、介護が必要となってしまった。そんなとき、物が溢れて、片づいていない実家ですと、色々な苦労があるかもしれません。片付けアドバイザーの石阪京子さんの著書『実家片づけ 「介護」「看取り」「相続」の不安が消える!』(ダイヤモンド社)では、親が元気なうちに実家片づけをする必要性や、実家片づけのノウハウが書かれています。本書に関連して、実家片づけで気をつけたいことや、石阪さんご自身の実家片づけの経験について、お話を伺いました。 〈写真で見る〉親が安全に最期まで暮らすための「実家片づけ」のポイント ■大事なのは「金目の紙」 ――本書では、実家片づけのゴールは「モノ」と「紙」両方を片づけ終わることと書かれています。 片づけというと「モノ」の片づけを思い浮かべる方は多いと思うのですが、実家片づけで大切のなのは「紙」の片づけ。紙は「残しておいた方が安心」という気持ちがあるので、たくさん出てきますが、必要なのは「金目(かねめ)の紙」。通帳や生命保険の証書、不動産の書類といったものです。 加えて使う目的がある紙も必要です。パスポート・診察券・医療費控除のための書類・年賀状など。年賀状は翌年に年賀状を書くための資料として、1年保存で十分だと思います。 ――実家片づけにおける、「モノ」の片づけのポイントを教えていただけますか。 モノの片づけは、安全な空間を作ることがゴールです。そのために部屋割りから見直し、特に就寝スペースを見直すといいでしょう。一軒家の場合、2階で寝ているなら、1階に移動し、かつキッチンに近い部屋を就寝スペースにする。今後、介護になったとき、車椅子が通れる家を目指して片づけることを勧めています。 一軒家の場合、2階には元子ども部屋があることが多いと思います。使うものだけ残すことが理想ですが、1階にいつも使うものを置き、2階にはどうしても捨てたくないものを置いておく選択もあります。 たとえば、昔やっていたフラメンコの衣装やピアノの楽譜など、思い出が詰まっているものは、50年くらい使っていなくても、捨てたくないとおっしゃるご両親もいます。そういうときは、無理して捨てなくて大丈夫です。大きなものではないので、後で捨てたとしても、すごくお金がかかるわけでもないですから。 今はまだ実家片づけが全然関係ないと思っているご両親でも、「80歳になったら、ベッドをこの部屋に持ってくる」「90歳になったら、このタンスは大きすぎるから捨てる」など、小さなゴールを示してあげるといいですよ。私も何回かに分けて実家片づけをしてきています。 ――親が「もったいない」「使うかもしれない」と手放せないタイプの場合は、どうすればいいでしょうか? 使わないけれども捨てたくないのでしたら、「もらってもいい?」と聞いてみてください。たとえば、今の時代、着物は高く売れないことが多いです。いざ手放そうと思って、呼んだ買い取り業者が悪質で、高価なものを格安で買い取られてしまう……なんてことになったら危険です。 子どもが引き取って、子どもが安全な業者に売るか、もしくは処分するといいでしょう。あとから「返して」と言われることはまずありません。 ほかにも「このぬいぐるみ、フリマアプリで3000円で売れるらしいよ」なんて言うと、「あらそうなの、なら売っていいわよ」なんて、すんなり進むことも。 捨てるのは嫌だけれども、喜んでくれる人がいるなら手放せたりする。捨てることの心の痛みのようなものもあるので、その点を踏まえて声かけをするといいですよ。 ■親族間でのトラブルを避けるために ――実家片づけでは、親族間でのトラブルにも注意する必要があることが、本書には書かれていました。 事前の根回しは重要です。連絡なく、実家片づけを始め、金目の紙や高価なものを整理していたら、疑いの目を向けられてしまう可能性も。 相続人となる人に、いつ誰が実家片づけをするか、事前に連絡するのは最低限必要で、家族会議やLINEグループで、情報共有ができると望ましいです。 当日はリモートで繋ぎながら「こういうものが出てきたけれど、誰のかわかる?」「これはどうしたらいい?」など、相談しながら進める方法もあります。 実施後はどんなことをしたか報告し、捨てたものの写真を共有するなどすると、後から「聞いてない」という事態になることを避けられます。 ■実家片づけをしたから得られたこと ――石阪先生ご自身の実家片づけで、印象に残っていることはありますか? 母が車椅子生活になった時点で、食器棚を一つ捨て、6~7人用のテーブルを小さなものに買い替えました。家の中を車椅子が通れるようにし、父と母がキッチンに並べるようになったんです。父はそば打ちを教えているのですが、家庭料理はできなくて、父は母に一から料理を習いました。当時、食器棚を捨てることを諦めてしまっていたら、実現できなかったことです。 今は父が母の味を作れるんです。私も母の味を継承していますが、父は「俺の方が上手いね」なんて言ったりしています(笑)。 人が横になれるくらいの大きなソファーも処分したことで、寝たきり状態の母が入浴サービスを受けられるようになりました。母は自宅介護の中で、週1回のお風呂をすごく楽しみにしていました。ソファーを捨ててなかったら、母は体を拭いてもらうだけになっていたと思います。 片づけ=しんどい・大変など、嫌なイメージがありますが、片づけたからこそ得られたこともありました。 ――片づけてスペースができることで、生活の選択肢が増えることは、言われないとイメージできないかもしれません。 介護は急に始まることが多いので、「スペースがないし、どうしたらいいかわからないから、とりあえず病院」という選択をすることは珍しくないようです。少しずつ片づけ、介護も見通した実家片づけをすることで、福祉のサービスを利用しながら、最期まで自宅で過ごすことも可能になります。 ■片づけられない人は真面目で優しい ――『一回やれば、一生散らからない「3日片づけ」プログラム これが最後の片づけ!』(ダイヤモンド社)では、片づけられない人は真面目で優しい人が多いと書かれていました。世間のイメージでは、片づけられない=だらしがないなど、マイナスな印象を持たれる傾向にあるので意外でした。 たとえばキッチンに物がたくさんある方は、料理が苦手だけれども、家族においしいものを作ってあげたくて良い鍋を買ったり、時短の道具を取り入れようとしたりと、家族に良い暮らしをさせてあげたくて物を買っている人が多いんです。洋服も捨てるのがもったいない、かわいそうという気持ちから手放せなかったりします。 真面目で丁寧な家事をされることにもこだわりを持っていて、たとえば絵本の補修をするために、図書館で使うような専用の補修道具を持っていた方もいらっしゃいました。 人にも物にも優しくて、自分の理想の暮らしができない方が多いので、「その優しさは、あなたの人生に使ってください」とお伝えしてきました。 かつては、丁寧に家事をすることが正しいとされていました。女性の生き方は変わってきましたが、家庭のことは未だに女性に負担が偏っています。その上で、母親が丁寧な家事をする環境で育っているので、「自分もそうしなきゃ」と無意識に思っている人も少なくありません。 小さなことの積み重ねで、時間はどんどんなくなってしまいます。自分の時間を得るために、やめてもいい家事を手放すことを、若い人に勧めています。 【プロフィール】 石阪京子(いしざか・きょうこ) 片づけアドバイザー。宅地建物取引士。JADPメンタル心理カウンセラー・上級心理カウンセラー。 独自のメソッドは、一度やれば絶対にリバウンドしないのが特徴で、これまで様々な方法を試したり、プロに頼んではリバウンドを繰り返してきた人たちの「最後の駆け込み寺」となっており、直接指導した人は1500人を超える。 『一回やれば、一生散らからない「3日片づけ」プログラム これが最後の片づけ!』『人生が変わる 紙片づけ!』(ともにダイヤモンド社)は、累計16万部を突破。 インタビュー・文/雪代すみれ
雪代すみれ