シロアリはなぜ「木だけ」で生きられる?「100年の謎」を解いた東工大 本郷氏に聞いた
木造住宅といった木材を食べる害虫として厄介者扱いされるシロアリ。大多数の生物はデンプンを分解してエネルギーを得るが、シロアリは樹木の大部分を占めるセルロースを分解してエネルギーを得ている不思議な虫だ。その秘密は、シロアリの腸内に住んでいる微生物にある。ただ、シロアリと微生物が共生関係にあることは100年前からわかっていたが、その詳細な役割や機能まではわかっていなかった。この100年の謎を解き明かしたのが、東京工業大学 生命理工学院 教授 本郷 裕一氏。今回、本郷氏に、興味深い研究成果と生命の不思議について聞いた。 【詳細な図や写真】イエシロアリ(左)、腸内原生生物(右上、べん毛虫:シュードトリコニンファ)とその細胞内共生細菌(右下)(出典:Hongoh et al, 2008, Science)
100年“謎”だったシロアリの腸内微生物の役割
──(大隅基礎科学創成財団 理事 野間 彰氏)シロアリとその腸内の微生物の共生関係を調べられて、なぜシロアリが木だけを食べて生きていけるのかを明らかにされました。研究の概要を教えていただけますか。 本郷 裕一氏(以下、本郷氏):まずシロアリは「アリ」という名前がついていますが、実はゴキブリの仲間です。木造住宅に住み着いての柱や土台などの木材を食べてしまうという害虫というイメージが強いですが、自然界では倒木を分解したり土壌改良の役割を果たす益虫であり、最近ではバイオ燃料開発で注目されたりしています。 シロアリは腸内微生物と共生関係にありますが、これは1920年代からわかっていました。たとえば、高濃度の酸素を与えると腸内微生物は死んでしまうのですが、その後でシロアリに木を食べさせると、そのシロアリも死んでしまいます。つまり、共生関係があるということです。 また、腸を丸ごと使った生理化学的な実験をすると、腸内微生物が木を分解・消化して発酵し、酢酸が作られます。その酢酸がシロアリの栄養源になること、そして発酵の過程で発生した水素を腸内微生物が除去することで発酵を促進させることも、おぼろげながらわかっていました。 ただし、具体的に腸内微生物がどのような役割を果たしているのかという決定的なことはわかっていませんでした。その理由が、腸内微生物の培養が困難だったからです。この100年間、微生物学者が努力してきたのですが、極めてまれに成功するくらいで、うまく培養できなかったのです。