<連載 僕はパーキンソン病 恵村順一郎> あなたの心にも、きっと1羽のカワセミが棲んでいる 「だいじなもの」をとりもどそう
パーキンソン病は、脳の神経細胞が減少する病気です。ふるえや動作緩慢、筋肉のこわばりといった症状があり、便秘や不眠、うつなどがみられることもあります。連載では、ジャーナリスト恵村順一郎さんが、自らの病と向き合いながら、日々のくらしをつづります。
【エッセイ編・病中閑あり】その21 カワセミ
僕はこの連載で、自宅周辺での身近な野鳥について、折にふれて紹介してきた。 身近な野鳥を撮るために、カメラを歩行器に積んで散歩に出かけるようになったこと。高所から縄張りを見張るモズが、下を向いて歩く僕に上を向くきっかけをつくってくれたこと。4羽の子ツバメが無事に巣立ったこと。そして、無数のムクドリが自宅近くに「集団ねぐら」をつくったことなどだ。 2024年を締めくくるに当たり、僕にとって「特別な、身近な野鳥」(妙な日本語でスイマセン)であるカワセミを取り上げたい。
自宅マンションに近い用水路に、1羽のカワセミが棲(す)んでいる。散歩の際、僕は用水路沿いの緑道を、カワセミを探しながら歩くことが多い。 カワセミはふだん1羽で縄張りに目を光らせている。飛来した別のカワセミは、すなわち敵である。ツーショットが撮れるチャンスは春の繁殖期の出会いの瞬間だけだ。 首尾よくカップル成立に至れば、2羽は直ちに営巣地に去るようだ。夏の終わりごろまで、この水路でカワセミはほとんど見られなくなる。
僕はことし4月1日朝、カップル成立の場面に偶然巡り合い、撮影できた。年に一度のチャンスなのでうれしかった。――と、ここまで書いたところで、11月25日朝、護岸に並ぶ2羽のカワセミを見つけた。これはどういう行動なのでしょう? どなたかお分かりになられる方は、ぜひお教え下さい。
さて7月末、僕は一転して悲しい出来事に遭遇することになる。 スーパーの窓の外側で死んでいるカワセミを見つけたのだ。カワセミに限らず、大型の窓に激突して事故死する野鳥が増えているという話を聞く。窓ガラスに映る自身を、縄張りの横取りを図る敵と思い込み、排除しようとして窓に突っ込むらしい。 それでなくともここ数年、水路の周辺には先のスーパーやマンション、住宅、駐車場などが次々とでき、身近な野鳥たちの姿は目に見えて減っている。この秋、カワセミは戻って来るだろうか――。 僕の心配は9月15日朝、解消した。用水路の護岸に1羽のカワセミを見つけ、その後も継続的に見かける。新たな縄張りの主が棲み着いたのだ。 20年ほど前だったか。カワセミとの邂逅(かいこう)の瞬間を僕は忘れられない。 散歩中、護岸で小さな「キラキラ光るもの」が動くのを感じた。目を凝らす。コバルトブルーとオレンジのツートンカラーの「何か」がいる。くちばしが長い! 鳥だ! 野鳥図鑑ではたいてい表紙に載っている、あのカワセミではないか!